ひらめきが生んだ冷凍シュウマイ。
元「ア・ポワン」岡田吉之さんのワンハンドクッキング
2022.03.11
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text by Sachiko Inomata / photographs by Takeharu Hioki
連載「食のバリアフリープロジェクト」
“食のバリアフリー”について考えるプロジェクト。健康上、宗教上など様々な理由で生じる食の障壁をなくし、皆でテーブルを囲むにはどうすればいいのか? 制限や制約を背景も含めて理解しながら、実践的なレシピを紹介します。
2009年3月に脳出血で倒れて右半身麻痺になった元パティシエの岡田吉之さん。数年間ふさぎ込みがちだった岡田さんが前を向き始めたのは、料理がきっかけでした。
「手で包めないなら、冷凍して固めればいい」。道具を活用したシュウマイレシピは、子育て中のママ、忙しい共働き夫婦、調理初心者の若者や男性、手元が不安な高齢者など、万人にとってお役立ちの調理法。いろんな応用も利きそうです。
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手間を惜しまない岡田吉之さん。「手間が料理をおいしくする」
手法は合理的に。味は徹底探求。
トントントントン……。豚バラ肉を果てしなく叩いて粗みじん切りにしていきます。
シュウマイって、家庭では豚挽き肉を使うのが普通ですが、僕はそれに刻んだ豚バラ肉を加えます。刻むのに時間がかかる。でも、脂身の多い部位を刻んで加えると肉の味わいが深くなります。病後どうしても食べたかった味です。
これはかつて、「粗みじん切りにした肉を揉み込むと旨いよ」と中国レストランの方から聞いて、取り入れた作り方です。ジューシーでコクが増すのです。
「ア・ポワン」時代に提供していた年末恒例の「フォワグラとトリュフのパイ」もそうですが、シュウマイのおいしさは肉種の揉み込みいかんにかかっています。
使い捨てのビニール手袋をはめて、調味料と肉類を3分間揉み込む。その後、粗みじん切りのタマネギを混ぜて練ります。最初からタマネギを入れてしまうと、まとまらず、おいしくなりません。
タマネギは皮を剥いてスライサーでスライスしてから、包丁で繊維を断ち切るように押し切って、食感が残る5〜6㎜の粗みじんに。障害者になり、みじん切りができない中で見出した切り方です。これで料理の幅が広がりました。
このタマネギに片栗粉を軽くまぶしておきます。こうすればタマネギから水が出ず、肉種がまとまりやすいのです。
肉種がしっかりまとまったらラップフィルムを密着させて2〜3時間冷蔵庫で寝かせます。このベンチタイムがお菓子でも料理でも肝心! 空気が抜けてなじみ、味に深みが出ます。締まって包みやすくもなる。
片手では包めないので、Richell社製の剥離しやすい離乳食用冷凍小分けトレーで冷凍します。皮を1枚ずつ容器に広げ、肉種を27gずつ入れます。ただし、皮をすべて敷いてから詰めると、手に皮がついたり、肉種が隣の皮に付着したりするので、皮は1つおきに敷き、交互に作業します。片手だから気づけた手法です。最後に冷凍の枝豆をのせて冷凍庫へ。1回に30個分を冷凍保存します。
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剥離しやすい離乳食用容器発見!シュウマイを手で包めない岡田さんは考えた、「冷凍して固めればいい」と。卵ケース、アイスクリームの容器……いろいろ試してついに見つけたのがこれ。離乳食をまとめて作って冷凍するこの容器がぴったりだった。
以前は卵パックなどで試しましたが、剥離しやすい離乳食用容器に出会えて幸いでした。
蒸すのは、蓋がドーム形のヨシカワのステンレス製蒸し器プレートで。いつもの鍋にのせて蒸せて、食卓にそのまま出せて重宝です。
蒸す際には、5〜6㎝幅に削ぎ切りにした白菜を敷き詰めて、蒸気の上がった鍋にかけてまず2分間。白菜に汗をかかせてから、冷凍庫から出したシュウマイを並べます。するとくっつかない。中弱火で20分蒸せば肉厚の白菜にもしっかり火が入り、肉の旨味が白菜に移ります。しかもヘルシー。 やめられないおいしさです。
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白菜をたっぷり敷いてヘルシーに食べる。そのまま食卓に出せる深めの蒸し器を通販でゲット。ここに大きめにカットした白菜をたっぷりと敷き詰めてから少し蒸し、冷凍したシュウマイをのせて20分蒸す。肉汁が白菜にも染み入る。
<RECIPE>
■シュウマイ
◎材料(30 個分)
タマネギ……300g(大2 個)
片栗粉……20g
豚バラ肉(切り落とし)……100g
豚挽き肉……335g
A
・塩、白コショウ……各2g
・すりおろしショウガ……15g
・上白糖……20g
・鶏ガラスープの素…5g
・日本酒、紹興酒……各20g
・ゴマ油……5g
シュウマイの皮……30 枚
冷凍枝豆(バラ)……個数分
白菜(1/2カット)……3 ~ 4 枚
<タレA>
ゴマ油……大さじ1/2
酢……大さじ1/2
塩……少量
*好みで化学調味料を少量
<タレB>
ラー油、醤油、酢、ゴマ油……各適量
◎作り方
【1】タマネギは5~6㎜大の粗みじん切りに(A)(B)。ボウルに入れて片栗粉を軽くまぶす。
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(A)タマネギは縦半分に押し切りにしてから皮を剥いて根元を切り落とす。大きめのスライサーに断面を当ててスライスする。
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(B)スライスしたタマネギは、包丁で押し切るようにして粗みじん切りにしていく。細かくない方がおいしいと岡田さん。
【2】豚バラ肉を5㎜幅に押し切って、叩いて細かく切っていく(C)。
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(C)豚バラ肉は5㎜幅に押し切ってから包丁で叩くように切る。何回もひっくり返しては切れているか確認しながら根気よく。
【3】別のボウルに豚挽き肉と豚バラ肉を合わせ、Aの塩、白コショウを入れて粘りが出るまで3分ほど握るようにしてよく 練る。残りのAも加えてさらに練る。粘りが肝心。まとまったらタマネギも加え混ぜる(D)。調味料はボウルを重量計 にのせて計るとよい。
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(D) 豚挽き肉、(C)、調味料を合わせ、約3分ギュッと握るように練る。粘りが出たら片栗粉をまぶしたタマネギを加え混ぜる。
【4】乾かないようにラップフィルムを密着させ、3 時間ほど冷蔵庫で寝かせる。
【5】離乳食用冷凍小分けトレーにシュウマイの皮をのせて中央を少し押す。肉種 を27gずつ窪みに落とし(E)、最後に枝豆を1粒ずつのせて軽く押す。
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(E)皮は窪みに1つおきに敷き、肉種をスプーンで詰めていく。皮をすべて敷くと、皮が手にくっつくなどして詰めにくい。
【6】6個詰めたらトレーごと冷凍する。霜が付くので袋には入れない(F)。凍ったらチャック付き袋に移して冷凍保存する。
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トレーごと冷凍庫に2時間。完全に固める。トレーを外し、チャック付き保存袋で冷凍。冷凍することで成形工程を省く。
【7】洗った白菜は横半分にしてから5 ~ 6㎝幅の削ぎ切りにして蒸気の上がった蒸し器に並べ、弱火で2分蒸してしんなりさせる。シュウマイをのせ、中弱火で20 分蒸す。
【8】蒸し器プレートごと皿に盛り、合わせた 2 種類のタレを添えて卓上へ。
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白菜ごと皿に盛って、一緒に食べれば、野菜も摂れる。
(雑誌『料理通信』2020年3月号掲載)