【パン業界の働き方改革】パリのブーランジュリーの最新形は、17時開店!
2022.11.21
text by Chiaki Mitomi / photographs by Sumiyo Ida / drawing by Yuriko Watanabe
フランスの飲食業でもっとも過酷と言われてきたパン業界に変革が起きています。早朝ではなく、日中にパンを焼き上げ、店をオープン。生きる糧を作る職業だからこそ自分のライフスタイルも大切にする、パリのブーランジュリーの最新形を紹介します。
目次
新しいブーランジュリーの形を示したい
夕方の3~4時間のみ開店するブーランジュリーが、パリに登場している。共通点は、小さな工房兼店の中で、古代小麦の粉と自家培養酵母でパンを作っていること。粉の旨味を感じる日持ちがするパンに注力するため、日持ちしないバゲットや、他の粉や材料が必要なヴィエノワズリーはほとんど作らない。
先駆者である「ル・ブリシュトン」オーナー、マキシム・ビュシさんは、環境に配慮しながら栽培された古代小麦でパンを作るペイザン・ブーランジェ(農家のパン屋)との出会いをきっかけに、栄養価が高いといわれる古代小麦を使ったパンを作ることを決意。当初は1人だったため、日中にパンを作り、週3回、夕方に販売することに。「昔のように、週1回パンを買って残さず食べてほしいと考えていたので、十分な営業時間でした」
現在はパティシエから転身したギレーム・リエさんが加わり、ビュシさんの家族が週5回の販売を手伝っているが、リズムは変わらない。「深夜や早朝の作業をせず、一般的な生活リズムや社会的なつながりを保ちながら経営する新しいブーランジュリーの形も示したいんです。機械や物件に大きな投資をせず、小規模経営に徹すれば、だれでも可能な経営形態です」と話す。
同店は工房兼店舗で28㎡。工房での作業が終わるとオーブンの前に陳列棚を置いて、店舗に変身。製造と販売の時間を分けることが、狭い物件の活用にもつながっている。
店に並ぶのは約10種のパン。小麦の祖先といわれるアングラン(プティ・エポートル)、南フランスで栽培されている古代麦トゥゼル、複数の小麦が混ざったブレ・ドゥ・ポピュラシィオンのパンのほか、ライ麦や栗の粉のパンもある。約10軒の農家から取り寄せる粉に、液体酵母、大西洋岸のヴェルトンヌ塩田の無精製の塩、パリ南部から汲んでくる井戸水を加える。粉の入手状況や粉の質によって、パンの種類やレシピは随時変わる。
工房にはミキサーも冷蔵庫も成形機もない。しかし古代麦は現代の小麦よりグルテンが少ないといわれるため、機械よりも手で捏ねるほうが向いているという。生地が軟らかいためバゲットのような成形も不要。軽くまとめて発酵かごや長方形の型に入れて焼く。
仕込みも販売も同じスペースで。「ル・ブリシュトン」の1日の流れ
●パン作りは水汲みから
●6:40 生地作り開始
●計量&分割
●成形&二次発酵
●焼成
●焼き上がり
●14:00 清掃
●16:00 開店準備&陳列
●17:00 開店
◎Le Bricheton(ル・ブリシュトン)
50 Rue de la Réunion,75020 Paris
火~土 16:00~20:00
日曜 11:00~13:00
月曜休
開業時期:2016年2月
店舗面積:28㎡
※取材時から営業時間が変わっています。最新の営業時間はお店のWebサイトやSNS等をご確認ください。
朝6時~仕込み、16時開店「ブーランジュリー アルシバルド」
2018年にオープンした「アルシバルド」のオーナー、マティアス・ヴェルテさんは、自然と関わりのある仕事を求め、不動産業界からパン職人に転身。「毎日安心して食べられるパンを作りたい」と、オーガニック粉に古代小麦プティ・エポートルでおこした自家培養酵母を加えた約10種のパンを作る。ヴェルテさん含めて2人の職人で、一般的な生活リズムを保ちながらの営業を模索。保存がきくパンであることから、朝6時から15時頃までに準備したパンを16時から販売するスタイルになったという。
こうしたブーランジュリーの新しい形態は、ライフスタイルへの現代的な考えを体現しているだけでなく、パンや食文化の原点を見つめ直そうとする職人たちの意志の表れといえるだろう。
◎Boulangerie Archibald(ブーランジュリー アルシバルド)
28 Rue des Fossés Saint-Bernard, 75005 Paris
月曜 12:00~20:00
火曜~金曜 11:00~20:00
土曜 10:00~19:00
日曜休
開業時期:2018年4月
店舗面積:80㎡
https://www.archibald.bio/
※取材時から営業時間が変わっています。最新の営業時間はお店のWebサイトやSNS等をご確認ください。
(雑誌『料理通信』2020年1月号掲載)
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