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日本 [島根]


山深く、海青く、起伏に富んだ地形が味を育む。

石見の隠れた名食材を求めて――4

Journal / JapanMar. 6, 2019

text by Rieko Seto / photographs by Sai Santo

小さな集落が山すそに貼りつくように点在する緑深き山々。空と溶け合うように広がる日本海。この起伏に富んだ地形こそが石見の食に多様性をもたらす要因だ。「トゥールダルジャン 東京」エグゼクティブシェフ ルノー・オージエさん、ホテルニューオータニ「レストランSATSUKI」料理長 大竹孝行さん、料理家の冷水希三子さんたちによる石見の生産者をめぐる旅は、道を上って下りて、アップダウンの連続だった。

山の生き物と共存する方法を考えた。

霧煙る山懐ろでホンモロコが養殖されていた。そこにある環境を活かしながら育てている。



山道を車でひた走り、たどり着いた美郷町の里山で育てられていたのはホンモロコ。4年前から、イトー農産の伊藤豊さんが、休耕田を転換させた池で養殖している。サルやイノシシに荒らされない作物とは何かを考えたのがきっかけだった。
「この集落では高齢化が進み、空き家がたくさんあるんです。サルやイノシシの被害で農業どころか家庭菜園もままならない。そんな環境の中でもできる仕事を生み出さなければと思っていたところ、大学に通う息子が『山の中で面白いことを研究している先生がいるよ』と。それが休耕田を利用したホンモロコの養殖でした」
稲作用の水路を活かすため、ポンプで水を汲み上げる必要がない。イノシシもサルも冷たい池の中までは入ってこようとしない。そこにある環境を活かしながら、動物とも共存するエコ養殖だ。
水揚げ後は地下水を張った蓄養池で3日ほど泥抜きして、生きたまま配送する。年間約150kgを出荷するまでになった。ホンモロコと言えば料亭や割烹で珍重される魚だけに、松江の老舗料理旅館「皆美館」に納めるなど、料理人からのニーズは高い。



伊藤さんが、泥抜き中のホンモロコをすくって見せてくれた。「ホンモロコは傷つきやすくデリケート」。



生きたまま宅配便で発送する。松江の「皆美館」や玉造温泉の旅館、東京・銀座のレストランにも卸している。



「これが若者の仕事になってくれたらいいなぁ」と伊藤さん。ここを若者が暮らしていける集落にしたい



田畑を荒らすイノシシも、食肉となれば大きな山の恵み。美郷町では15年ほど前から全国に先駆けて、地域一丸となって鳥獣被害対策に取り組んできた。目指すのは撲滅ではなく共存・共栄。おおち山くじら生産者組合(現在は株式会社おおち山くじら)を設立して、捕獲後の処理の精度を高め、食肉としての価値向上を図っている。ちなみに、「山くじら」とは肉食が禁じられていた時代のイノシシ肉の隠語だ。
「罠で捕獲して生きたまま処理場へ運び、衛生的に解体します」と代表の森田朱音さん。ジビエのクオリティは捕獲後の処理の仕方によるところが大きく、解体処理に力を入れる自治体が増えている中で、先駆け的存在と言っていい。「生きたまま処理場へ運ぶのは全国でもめずらしいと思う」と森田さんは言う。
ドングリをはじめ餌が豊富な美郷町の山で育ったイノシシの肉は旨味たっぷり。森田さんがしゃぶしゃぶにした肉を食べて、「柔らかいね」「脂が甘くてさらっとしてますね」と3人も納得の表情だ。



おおち山くじらのイノシシ解体処理場。徹底した衛生管理下で捌く。肉質もさることながら、処理の仕方で肉のおいしさに差が出る。



皮を外して、吊るす。牛肉や豚肉と同じ、肉屋の仕事並みの作業クオリティだ。



イノシシ肉をポトフや煮込みに仕立てた缶詰。パッケージが洒落ている。



美郷町にある料理店「そら豆」で提供される「山くじら定食」のイノシシ肉ハンバーグ。

同じ美郷町で3人を感激させたのが、「高畑環境ファーム清水農園」の清水溥万(ひろかず)さんが作る三瓶(さんべ)在来種の蕎麦の味わいだった。
収穫した蕎麦の実は唐箕を使って風選し、石抜き、研きの後、「天日乾燥させることで、艶、喉ごし、香り、旨味、甘味、すべてが際立ちます」と清水さんは話す。
茹でたての蕎麦を味わってみると、野趣に富んだ風味、ほのかに甘味を含んだ旨味に、「おいしい! 味が濃い!」とオージエシェフも大絶賛。「10割なのに、コシがありますね」と大竹シェフも驚く。

また、美郷町の「フレンドリーグループ」の女性たちが手づくりする天然醸造の「まほろば味噌」と甘酒は、どこか懐かしく心和む味わい。豊かな自然に育まれた地元のお米と大豆だけを使い、「本来の味を大切にしていて、余分なものは一切入れていません。小学校や保育園に納めていますが、『おばあちゃんの味がする!』って喜んでもらえるんですよ」と、代表の高橋浩子さんははにかむように微笑んだ。



三瓶蕎麦。地元に伝わる在来種。馥郁たる香りと味わいはまさに絶品。生産量は少なく年間50kg。京都の手打ち蕎麦店「かね井」にも卸している。



「高畑環境ファーム清水農園」の清水溥万さんが自家栽培・自家製粉の蕎麦粉で打ってくれた蕎麦は心洗われるおいしさ。



「まほろば味噌」は地元の大豆と米で自家製した麹で醸す100%美郷町産味噌。甘酒も美郷産の米麹で作る。まほろば産直市(道の駅「グリーンロード大和」内)で販売。



山の活かし方を若者が考える。

島根県は8割近くが森林に覆われている。日本全体の森林率は7割弱で先進国中3位だが、島根はとりわけ森や山で占められていることになる。つまり、山を活かすことが島根の人々にとって生きる術。
「シックス・プロデュース」の洲濱正明さんが、2004年、生まれ育った邑南町で始めたのは、365日・24時間自然放牧、すなわち牛舎を持たない酪農だ。
「本来、牛は草を食べて生きる動物です。穀物を与えると乳が濃厚になるかもしれないけれど、それは牛の生理に適ったことではない。山で育てると、乳脂肪は少なくて、さらりとします。でも、熊笹を食べてベータカロテンが多く含まれたり、栄養や味の要素が多様になるから、色も味わいも濃く感じるんですよ」

最近は、自社の放牧牛乳の他に、邑南町・坂根牧場、大田市・中山農場の生乳も仕入れて商品化している。普通なら混ぜ合わせて製品化するところ、洲濱さんは農場別の商品に仕立て、各々の個性を生かす。コーヒーのシングルオリジン、ワインのクリュ(畑、区画)の考え方だ。飲み比べると、確かに色もコクも味も違って面白い。「季節や天候によっても味は変わります」と洲濱さん。牛乳の楽しみ方ひとつとってもまだまだ開拓の余地があることに気付かされる。



左が日和高原牛乳、右が放牧牛乳。ボトルごしでも色の違いがわかる。



洲濱さんの話を聞きながら、3種の牛乳を飲み比べ。「殺菌の温度も変えているんですよ」と州濱さん。

乳化剤や安定剤、香料を使わず、自然放牧の生乳を練り上げたソフトクリームも洲濱さん自慢の品。「コクがあるのに粘っこくなくて、さらっと消えますね」と冷水さん。坂根牧場の生乳を煮詰めたミルクジャムは、牛乳のやさしい風味が広がり、「後味がハチミツっぽいね」とオージエシェフ。原点に立ち返りつつ既成概念を覆していく洲濱さんの古くて新しい酪農は示唆に富む。



ミルクジャムは、日和高原の無脂肪乳とてんさい糖で作られる。プレーンとエゴマの2種がある。



放牧牛乳から作られるソフトクリームはすっきり軽やかなテクスチャーとミルキーさでやみつきになる。

「邑南町あたりは、元々、良質な原乳を産するエリアなんです」と語るのは、3年前から地元・邑南町の新鮮で質の高い生乳を使ったチーズ作りに取り組む「しまね おおなんチーズ工房」の日野広和さんである。
原乳の良さを最大限に生かすべく、朝、車で3分ほど離れた田中牧場まで搾りたての生乳を取りに行き、戻ったらすぐに製造をスタートさせる。「高い乳質と新鮮さがおいしさの秘訣です。前日の製造で出たホエーを加えて凝固させることで、やさしいテイストに仕上がります」。
乳感たっぷりの自然な甘さが魅力のフレッシュチーズ4種を手掛け、今後はハードタイプも作る予定だ。



近隣の田中牧場で搾りたての牛乳を仕入れ、その乳質と鮮度を生かすべく、すぐにチーズ作りに取り掛かる。



ストリングチーズを制作中。伸ばして折ってを繰り返す。手間はかかるが、人気の品。



現在のラインナップはモッツァレラ、リコッタ、ストリング、カマンベールの4種。奥に見えているのは試作品のゴーダ。今後、ハードタイプにも取り組む予定だ。



全国各地で銘柄豚の開発が進み、ブランドポーク群雄割拠の昨今だが、江津市が誇るのは「マルナガファーム」が手掛ける「江津まる姫ポーク」である。様々な品種を掛け合わせて安定性の高いハイポ―種を独自に改良、おがくずを敷き詰めた醗酵床式豚舎で飼育し、発育状態の良い雌だけを厳選して出荷している。きめ細やかで柔らかく、臭みが少なく、脂に甘味がある肉質が特徴。3人も「ジューシーですね」「脂がサラリとしていて食べやすい」と頷き合いながら味わっていた。



「江津まる姫ポーク」の肩ロース肉。充実感のある赤身だ。豚臭さがなく、日本人好みの味わい。



「赤身と脂身のバランスがいいね」とオージエシェフ。「バラ肉は軽くてさらっとしていて食べやすい」と大竹シェフ。



石見地方の豚肉ブランドとしては「石見ポーク」もある。ウィンドレス豚舎による徹底した衛生管理のもとで飼育されている。



全国的にもめずらしい「一日漁」と「晩市」。

「子供の頃から漁師になりたかったんです」。冬の冷たい潮風を受けながら、海を見つめて語ったのは、大阪からのIターンで夢を叶えた35歳の漁師、藤本卓也さんだ。所属するのは、漁業協同組合JFしまねの大田支所・久手出張所。港付近の海は、沿岸に岩礁が多くて天然の瀬や岩場があり、川によって運ばれるミネラルも豊富。幅広い魚種と質の高さを誇る。
藤本さんは底引き網漁業を7年ほど経験した後、7年前に独立。先輩漁師に見守られながら、一人で小型船に乗り、白イカ漁と、アマダイやレンコダイ、イトヒキダイなどの一本釣りを行なっている。
「一本釣りではイカを餌にして、ヒラマサ、サワラなども獲れます。こだわっているのは、鮮度管理。船上で漁獲物を丁寧に活〆処理して、氷水で冷やしにながら港まで持ち帰ります。今後はもっと細かく温度管理をして、質を高めたい」
高齢の漁師が増える中、若い力と強い意志で漁業に臨む藤本さんは頼もしい存在だ。



藤本卓也さん。一人、小型船に乗って海に出る。漁師に憧れ、大阪からやってきてもう15年になる。



取材で訪れた時期、海がしけて漁に出られない日が続いていた。海の仕事は自然にゆだねるしかない。右端は先輩漁師の品川敏彦さん。



大田市は、早朝に港を出て近海で採れた魚をその日のうちに水揚げして夕方の競り「晩市」にかける、全国でもめずらしい「一日漁」を行なう土地柄。「岡富商店」ではそのとびきり新鮮な魚を使い、濃度0.5~2%の塩水に一日漬けた後、網に並べて3時間ほど乾燥させて一夜干しにする。代表の岡田明久さんによれば「表面の水分を飛ばす程度に乾かすことで、旨味がぐっと増す」という。
真空状態で冷凍して出荷。解凍せずに焼けばふっくら、生魚に軽く塩を振って焼いたような状態になり、塩がきつくないので、料理の素材としても使える。
アマダイを食べたオージエシェフは「脂がのってる! おいしい」と驚いた表情。「白イカも甘いです」と冷水さん。大竹シェフも「どれも塩が強すぎず、素材の味がしっかり出ていますね」と笑顔を浮かべた。
「一日漁の魚を使うので価格は高くなりますが、鮮度と品質、おいしさで差別化が図れていると思います」と、岡田さんは胸を張る。
獲れたての魚を一刻も早く食べ手のもとへ届けたいとの思いから続けられてきたという一日漁と晩市。そのスピリットは石見の生産者の隅々にまで行き渡っている。



イカは、塩水に漬けずに乾燥させて一夜干しに。身の美しさが鮮度と質の高さを物語る。



昭和25年創業。2代目の岡田明久さんが乾燥室に運んでいるのはアナゴ。0.5%の塩水に浸けてから乾燥させる。



アナゴ、ノドグロ、白イカ、カレイなどの一夜干し。素材の魚を生かして塩は極少。薄塩ゆえ、唐揚げ、煮付けにも向く。



オージエシェフが思わず「これはおいしいよ!ビールが欲しくなるよ」。「ごはんが欲しくなる」と大竹シェフ。冷水さんの箸も進む。



ごはんと言えば、島根県を代表する米の品種はきぬむすめ。「石見高原ハーブ米きぬむすめ」は赤クローバーによる緑肥栽培で、「米のヒット甲子園2017」で大賞を獲得。



生産者を訪ねる合間をぬって、琴ケ浜海岸で鳴き砂体験。




DATA
▼ホンモロコ
◎ イトー農産

島根県邑智郡美郷町久喜原19
☎ 0855-77-0708

▼イノシシ肉
◎ おおち山くじら

島根県美郷町乙原 363
☎ 0855-75-0887

▼三瓶蕎麦、「まほろば味噌」、「美郷の甘酒」
◎ 美郷町役場 産業振興課

島根県邑智郡美郷町粕渕168
☎ 0855-75-1214

▼放牧牛乳
◎ シックス・プロデュース有限会社

島根県邑智郡邑南町矢上3119-3 ミルク工房四季
☎ 0855-95-0118

▼チーズ
◎ しまね おおなんチーズ工房

島根県邑智郡邑南町山田75-1
☎ 0855-83-0007

▼「江津まる姫ポーク」
◎ 浅利観光

島根県江津市後地町3348-113
☎ 0855-55-1155

▼「石見ポーク」
◎ ディブロ

島根県邑智郡邑南町矢上4605
☎ 0855-95-1585

▼魚
◎ JFしまね漁協大田支所・久手出張所

島根県大田市久手町波根西2075
☎ 0854-82-8955

▼一夜干し
◎ 岡富商店

島根県大田市久手町波根西1988-3
☎ 0854-82-8102

▼「石見高原ハーブ米きぬむすめ」
◎ JAしまね 島根おおち地区本部

島根県邑智郡邑南町下田所277
☎ 0855-83-1623











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