HOME 〉

JOURNAL / 世界の食トレンド

Finland [Helsinki]学生の環境意識が「学食」を変える、ヘルシンキの最先端食スポット

2023.05.15

学生の環境意識が「学食」を変える、ヘルシンキの最先端食スポット

text / photographs by Asaki Abumi

北欧の大学には環境意識が高い若者が多いこともあり、学食も自ずと気候変動対策が進んでいる。「私たちは倫理的にも、味にも妥協はしない。環境に対する責任を真剣に考えている」と掲げるのは、フィンランド、ヘルシンキ大学の食堂「ユニカフェ(UniCafe)」だ。


首都地域5つのキャンパスに17軒ある同店のメニューは、パリ協定に従って気温上昇を1.5℃に抑えるため、ランチ1食で排出される二酸化炭素量は0.5kg未満に抑えられている*。なお、フィンランドの平均的1食の二酸化炭素排出量は1.4㎏だという(ユニカフェ調べ)。

自分の食事で発生する二酸化炭素を補いたい場合は、支払い時に“compensate(補いたい)”と申し出るとメニュー内容に応じて料金が追加され、カーボンシンク(炭素吸収)プロジェクトに投資される。例えば、肉料理を注文していたら0.15ユーロ、魚かベジタリアンのメニューなら0.10ユーロ、ヴィーガンなら0.05ユーロといった具合だ。

フードロス対策も徹底している。残った料理は再利用可能な容器に入れて安価に販売し、容器を持参した場合はさらに安くなる。食べ残しを減らすために、ゴミ箱には廃棄された食品量が数字で表示される仕組みもある。

(写真)食べ残しを捨てるゴミ箱と掲示板。食べ残しは1人25gまでが目標。撮影前日の食べ残し量の平均は17gだったと記載されている。

(写真)食べ残しを捨てるゴミ箱と掲示板。食べ残しは1人25gまでが目標。撮影前日の食べ残し量の平均は17gだったと記載されている。

2023年に70周年を迎えるユニカフェだが、オープン当初はソーセージやチーズなどのメニューばかりだった。学生の意識の変化に合わせて今があるのだ。

学食に「こうあってほしい」と経営方針を伝えるのは、学生2万7千人の代表である学生理事会だ。理事会は“食堂の所有者”という立場で、学生団体から出される価値観や行動指針に従って外部企業が運営をする。

利用者の85%は学生で、残りはヴィーガンメニュー目的、観光客、家族連れや年金生活者が多いという。学生以外の利用者は通常価格だが、それでも他の飲食店より価格は安い。
「物価や光熱費が上昇中の今、これほどの高い意識で学食を運営するのは簡単なことではない」と話すユニカフェのビジネス・ディレクター、アンネ・インモネン氏。85%が学割では持続可能な運営は難しいため、フィンランド政府が学生料金の半額を補助している。

「学生はもちろん、フィンランド市民は気候変動によって何が起きているかを理解しています。地球に対して罪悪感をもっているからこそ、ユニカフェにこのようなガイドラインを求めてくるのです」
公式ホームページに記載されている行動指針は、日本の飲食店にも参考になるだろう作りになっている。すでにこれほどまでかと徹底された学生食堂だが、数年後にはさらなる進化を遂げていそうで楽しみだ。

*WWF(世界自然保護基金)/One Planet Plate 2021によれば、食事によって排出される二酸化炭素許容量が算出されており、昼食の二酸化炭素排出量は0.5kgであるべきとされている。

(写真トップ)ヘルシンキ鉄道駅から徒歩でアクセスできる「ユニカフェ・カイボピハ」は、全メニューがヴィーガン仕様という特別な店舗。学生だけでなく一般市民や観光客も利用できる。併設されたカフェ&バーも環境に配慮した運営で、例えば、ワインは瓶のカーボンフットプリントが高いため、紙パックを選んでいる。

(写真)併設のバーでは、事前に盛り合わせた持ち帰り用弁当も販売。現在は物価が高いので、料金が高めとなる魚料理は少なめにするなど工夫している。

(写真)併設のバーでは、事前に盛り合わせた持ち帰り用弁当も販売。現在は物価が高いので、料金が高めとなる魚料理は少なめにするなど工夫している。

(写真)ユニカフェのアンネ・インモネン氏。「かつてはヴィーガンメニューの選択肢が1種類しかなく、利用者からフィードバックが寄せられていました。全店舗、週に2~3日は最低でも2種類のヴィーガンメニューを用意しています」

(写真)ユニカフェのアンネ・インモネン氏。「かつてはヴィーガンメニューの選択肢が1種類しかなく、利用者からフィードバックが寄せられていました。全店舗、週に2~3日は最低でも2種類のヴィーガンメニューを用意しています」



◎UniCafe Kaivopiha
Mannerheimintie 3
https://unicafe.fi/en/restaurants/kaivopiha/
通常価格8.7ユーロ、ヴィーガンランチ8.6ユーロ
学生価格ランチ2.85ユーロ、その他ランチ2.95ユーロ

*1ユーロ=147円(2023年4月時点)

料理通信メールマガジン(無料)に登録しませんか?

食のプロや愛好家が求める国内外の食の世界の動き、プロの名作レシピ、スペシャルなイベント情報などをお届けします。