日々の生活に収穫する喜びを。機能満載の卓上植物栽培キット
Norway [Oslo]
2025.01.30
text by Abumi Asaki / photographs by AUK
「アウク・ワン(Auk 1)」は縦29 ・横56 cm、植物ポットが6個付いて3699ノルウェー・クローネ。
北欧の冬は寒く、暗く、長い。その地理的条件のため、栽培できる植物と時期は限られている。多くの市民は夏にバルコニーや庭でガーデニングを楽しむが、冬になるとその趣味は不可能になる。花屋で花を買うか、スーパーで食用ハーブを買うしかない。そこには毎日少しずつ成長する植物を見る喜びはない。
そこで、ノルウェーのスタートアップである「アウク(Auk)」は、家庭でも簡単に冬もトマトやバジルの栽培が可能なキットを開発した。創業者のマリウス・アーベルさんは、2019年の暗い冬の日に、自分で育てられる植物がないことに飽き飽きして、この商品の開発に着手。今や30カ国、5万人以上の顧客を抱える急成長企業だ。
ネットで注文するとキットが届き、設置するだけ。水や栄養素を与えるタイミングはアウクが教えてくれる。LED照明で、植物に合わせて光量や栄養素を調整できるので、冬でもキッチンや居間で植物が育つ様子を楽しむことができる。最近は小さめサイズの「アウク・ミニ(Auk Mini)」をリリース直後、2万人以上が購入ボタンを押した。価格は安いとはいえないが、それでも栽培がライフスタイルの一環である市民にとっては、コスパがいい製品であることを証明している。
アウクはノルウェー語の 「Matauk」に由来し、「自然から収穫する」という意味だ。「ノルウェーの伝統と、私たちの基本的な使命である『世界を少しでも自給自足できる環境に優しいものにする』ことの両方を兼ね備えた名前にしたかった」とCEO・共同創業者であるディドリク・ディンメンさんは語る。
アウクの人気の背景は総合的なものだと彼は考える。
「楽しくて、やりがいがある。植物の成長を見守ることは、人類にもともと備わっている本能です。信じられないほど使いやすく、料理の食材にもなる。大量の水や電気を必要とせず、何年も使い続けられるので、これほどいい投資はないのです」
商品のヒットに「見た目の美しさ」も絶対条件だ。アウクは世界中の優れた独創的なデザイン作品を表彰する国際デザインコンペティション「MUSEデザインアワード2024」金賞など、3つの国際的なデザイン賞も獲得している。
「ノルウェーで使えるのなら、どこでも使えるはずです。長く寒い冬、アウクは暗闇を明るくしてくれます。北欧はデザインにうるさいので、成功するためには重要な要素でもありました」とディンメンさんは話す。
開発の上で最も大きな課題となったのは“栄養ミキサー”だ。植物が必要とする栄養分は、植物の種類や成長段階よって大きく異なる。ハーブやレタスなどの食用植物は、特に敏感だ。 試行錯誤の末、異なる種類の養分を混ぜ合わせる機械式の栄養ミキサーが誕生した。
水タンクの下には栄養カプセルがセットされていて、水と一緒にポッド下の台座に行き渡り、伸びた根が吸い上げる。水と養分が一緒になって循環するため、藻や不快な臭いの発生を避けることができる。面倒な掃除を省ける点は、多くのユーザーにとって魅力的な点だろう。
栽培するものにもよるが、6~9カ月間、育てて収穫することができる(1年以上生きる植物もある)。日本とは比較にならないほどの暗い冬が続く北欧で、このありそうでなかった商品がヒットするのは頷ける。
◎AUK
https://no.auk.eco/
*1ノルウェー・クローネ=13.7円(2025年1月時点)