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大地からの声――28
いりこから見る日本の海と食卓。
「やまくに」 山下公一さん

People / Producer Mar. 15, 2021

photographs by Naoko Morimoto

香川県観音寺市の「やまくに」は明治20年創業、家族3人で営むいりこ屋さんです。鰹節や昆布に押されがちなだし勢力図の中で、いりこの存在感アップに尽力してきました。「いりこのおっちゃん」の愛称で親しまれる山下公一さんは、日本全国を飛び回り、ワークショップやイベントを通して、現代の食卓でこそ活きるいりこの有用性を説いています。いりこの伝道師が語る日本の食と未来の食に耳を傾けます。



問1 現在の状況

店頭での売上は半分以下に。

全国各地へ出向いては、ワークショップを行い、フェアやイベントに参加して、いりこの魅力を伝えてきました。しかし、コロナによって、昨春以降、そういった機会がまずなくなった。お客さんに直接伝える場が持てない痛手は大きいですね。

創業から130年以上、いりこ一筋ですが、今のスタイルに方向転換したのは15年ほど前です。辰巳芳子先生の言葉がきっかけでした。「産地にこだわるだけではだめなのよ。人にできないことをやらなければ」と諭され、私たちは「手作業に徹しよう」「親子3人でできる仕事にこだわろう」と決めたのでした。

素材を厳選し、選別から袋詰めまで、すべて自分たちの手で行います。パッケージにも心を砕きました。その結果、ライフスタイルショップやセレクトショップでの扱いが多くなったのですが、それらのお店は、いわゆるエッセルシャルなスーパーと比べると、コロナ禍による来店客の減少が顕著です。どうしたって賞味期限のある商品は置きづらくなる。全国的に店頭での売れ行きは半分以下に落ち込んでいます。

代わりにECによる売上を伸ばそうと、オンラインショップのスマホ対応化を図りました。全体的に見れば、現在の売上はコロナ前の7割くらいでしょうか。


パッケージやWebサイトのデザインは、高知県在住デザイナー梅原真さんが手掛けている。今年からデザインを一新した。


問2 コロナで気付かされたこと、考えたこと

いりこの価値を伝えきれていない。

「おうちごはんが増えて、いりこ、売れるでしょう?」と言われます。それがそうでもないんですね。うちの商品は、いりことしては値段が高いせいもあってか、おうちごはんが話題になるわりには伸びていない。やっぱり、いりこはいりこやなぁ、と思うのです。

やまくにのいりこは、瀬戸内海中央部の燧灘(ひうちなだ)で獲れたカタクチイワシを加工したものです。漁獲、煮沸、乾燥という工程ででき上がりますが、鮮度落ちが早いイワシをいかに素早く加工するかで味が決まります。水揚げから煮沸までの時間が短ければ短いほどいい。丁寧に網から揚げたイワシを高速運搬船で港へ運び、速攻で加工場へ向かい、熱湯で煮る。ここまでをわずか30分で行ないます。波の流れが穏やかなのでカタクチイワシの骨や身が軟らかくて上質なダシが取れるという環境に加え、一連の工程を網元が一貫して行なう点も、燧灘のいりこがおいしい理由なんです。

それと大切なのが、澄んだだしが取れるカタクチイワシの見極めです。料理して食べるならさぞ旨かろうっていう脂ののったイワシは、実はいりこには向きません。それでは澄んだダシがとれない。「脂イワシ」と呼んで、私たちがそれらを使うことはありません。澄んだダシがとれるイワシだけを厳密に選別します。加えて、やまくにでは、いりこを丸ごと食べてほしいから、上質な「銀付いりこ(傷がなく銀色に光る最上級のいりこ)」を手選りして、一尾一尾、手で割って頭とワタを外し、弱火でじっくり焙煎した「パリパリいりこ」も作ります。これは冬場ですと3時間以上かかることもある。そして、袋詰めまですべて手作業です。
でもね、袋に入ってしまうと、それってわかりにくいでしょう?


漁の際に網によって傷付いていない、ウロコがきれいで銀色に光っている良いいりこ。


いりこって、「説明商品」なんだなとつくづく思います。どのように作っているのか、何が違うのか、安くない理由を語って伝えないと、納得してもらえない。だから、ワークショップや勉強会が大切なんです。
同じダシでも鰹節や昆布には、市場価値を上げる旗振り役がいました。でも、いりこにはいなかった。悔しいけれど、いりこの価値を伝えきれていないと感じます。

世界的に和食が注目されて、だしへの関心が高まって、鰹節や昆布は海外でも使われ始めていますが、いりこはまだまだ。漁師が漁から加工まで半ズボンとねじり鉢巻きで一貫生産する昔ながらの製造方法がHACCPなどの認証を取りにくくしていて、輸出が難しいという事情もあります。


昨年参加できた数少ないイベント、東京「松屋銀座」の「銀座・手仕事直売所」で。


問3 これからの食のあり方について望むこと

次世代の食生活に浸透させていく。


網元も、加工場も、組合も、減少の一途をたどってきました。
いりこの原料となるカタクチイワシ漁は、4隻が船団を組み、全長300mに及ぶ大型の網を引いて、その中に魚群を追い込んでいくという漁法です。加工場へ速攻で運ぶ高速運搬船も欠かせませんし、総計25~26人の働き手が必要になります。私の親戚も網元を廃業しましたが、維持するのはかなり大変なんですね。
いまはまだ、解禁日ともなると、香川県の伊吹漁協、仁尾漁協、愛媛県の川之江漁協、三島漁協に属する船団がひしめき合いますが、これもいつまで続くだろうかと心配になります。


4隻で船団を組んで挑むカタクチイワシ漁。昨年6月の漁の解禁日に立ち合った東京・青山「てのしま」林亮平料理長が撮影。

もうひとつの心配が、魚質の低下です。燧灘でもこの10年、特にここ2、3年、カタクチイワシの質が落ちています。昨年、3年ぶりに銀付に出会えましたが、それくらい上物が少なくなってきた。温暖化の影響でしょう。

秋になっても海水温が下がらないから、秋いりこが獲れなくなったり、かと思えば、今年1月、以前なら獲れなかったはずの時期に宇和島沖でカタクチイワシが大量発生して獲れたなんてことも起きている。しかし、その辺りではすでに加工場が廃業していて、いりこに加工できないため、粉砕してだしパックの原材料になったそうです。一次産業が朽ちていく、と感じるんです・・・。

そんな中での救いは、人とのつながりです。
奈良の「くるみの木」の石村由起子さんの紹介もあって、若い料理家さんたちが訪ねてきてくれる。料理家さんたちがいりこを使った料理レシピを雑誌でご紹介くださったり、お薦め食材としてご推薦くださったり、また、東京・青山の和食店「てのしま」の林亮平さんは京都「菊乃井」出身の日本料理人ながらいりこを店で使うなど、次の世代へつなぐことに一生懸命な人たちに恵まれているのはありがたい。


「てのしま」では、コースの〆のにゅうめんをやまくにのいりこでとっただしで作る。昨年12月27日には1日限定“年越しうどん居酒屋”を開催。写真はその時のもの。

いりこの使い方、だしの取り方を知らない若い世代は多いし、百貨店の若いバイヤーさんから「いりこって、食べられるんですか?」なんて聞かれて、倒れそうになることもあります(笑)。でも、世界的にもカタクチイワシを干してダシにする文化はめずらしいだろうと思うだけに、なんとか残したい。

以前、香川県がいりこのブランディングを図ろうとしたことがありました。辰巳先生は「それよりも子供のためのワークショップをやったほうがいい」とおっしゃった。実際、私の娘が子供のためのワークショップを続けていますが、子供たちにうちの「パリパリいりこ」を食べさせると喜んで食べます。

時間はかかるけど、草の根運動のように地道に次世代の食生活に浸透させていくこと、味覚に覚えさせることが、いりこ文化をつないでいく方法なんじゃないかって思います。 いりこだけにちまちまではありますが、細く長く絶やさぬように伝えていかねばと思っています。



山下公一(やました・こういち)
香川県観音寺市生まれ。明治20年(1887年)創業のいりこ屋5代目。厳選・加工して最上級のいりこに仕上げるかたわら、全国各地で開かれるイベントに出展し、いりこの上手な使い方や調理法を伝えている。だしとして使う以外にも、炊き込みご飯やポトフなど幅広い活用法を提案。辰巳芳子さんをはじめとする料理家とも親交が深い。現在は6代目の加奈代さんが代表を務めている。

やまくに
香川県観音寺市柞田町1861-1
☎0875-25-3165
https://paripari-irico.jp/
Instagram:@yamakuni_irico_ichizoku





大地からの声

新型コロナウイルスが教えようとしていること。

「食はつながり」。新型コロナウイルスの感染拡大は、改めて食の循環の大切さを浮き彫りにしています。

作り手-使い手-食べ手のつながりが制限されたり、分断されると、すべての立場の営みが苦境に立たされてしまう。
食材は生きもの。使い手、食べ手へと届かなければ、その生命は生かされない。
料理とは生きる術。その技が食材を生かし、食べ手の心を潤すことを痛感する日々です。
これまで以上に、私たちは、食を「生命の循環」として捉えるようになったと言えるでしょう。

と同時に、「生命の循環の源」である生産現場と生産者という存在の重要性が増しています。
4月1日、国連食糧農業機関(FAO)、世界保健機関(WHO)、関連機関の世界貿易機関(WTO)、3機関のトップが連名で共同声明を出し、「食料品の入手可能性への懸念から輸出制限のうねりが起きて国際市場で食料品不足が起きかねない」との警告を発しました。
というのも、世界有数の穀物生産国であるインドやロシアが「国内の備蓄を増やすため」、小麦や米などの輸出量を制限すると発表したからです。
自給率の低い日本にとっては憂慮すべき事態が予測されます。
それにもまして懸念されるのが途上国。世界80か国で食料援助を行なう国連世界食糧計画(WFP)は「食料の生産国が輸出制限を行えば、輸入に頼る国々に重大な影響を及ぼす」と生産国に輸出制限を行わないよう強く求めています。

第二次世界大戦後に進行した人為的・工業的な食の生産は、食材や食品を生命として捉えにくくしていたように思います。
人間中心の生産活動に対する反省から、地球全体の様々な生命体の営みを持続可能にする生産活動へと眼差しを転じていた矢先、新型コロナウイルスが「自然界の生命活動に所詮人間は適わない」と思い知らせている、そんな気がしてなりません。
これから先、私たちはどんな「生命の輪」を、「食のつながり」を築いていくべきなのか?
一人ひとりが、自分自身の頭で考えていくために、「生命の循環の源」に立つ生産者の方々の、いま現在の思いに耳を傾けたいと思います。

<3つの質問を投げかけています>
問1 現在のお仕事の状況
問2 新型コロナウイルスによって気付かされたこと、考えたこと
問3 これからの私たちの食生活、農林水産業、食材の生産活動に望むことや目指すこと









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