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マイナー魚を絶品つまみに。「にほん酒や」高谷謙一さん流 握って楽しむ地魚すし

2023.06.26

マイナー魚を絶品つまみに。「にほん酒や」高谷謙一さん流握って楽しむ地魚すし

photographs by Shinya Morimoto

なじみの薄い品種や数の獲れない地魚、売れ残りがちなマイナーな魚たちを救うべく、「にほん酒や」高谷謙一さんが考えたのは、なんと握りすし。酒場で仕込まれる、高谷さん流のすし仕事の一部を紹介します。

目次






「すし」だから、できること

東京・吉祥寺に店を構えて、早10年。お燗酒を軸に、発酵、摘み草、江戸料理など様々なアプローチで、訪れる人々を楽しませる「にほん酒や」高谷謙一さんが、ついに、すしを握りはじめた。一体、なぜ?

「飲食店と生産者は、店側が欲しい食材と数を注文し、生産者が応えるという店主導の関係性になりがち。でも生産者は、天候や害虫害獣被害など、日々計算できない状況に対峙しています。ならば店側も、その時ある食材を受け入れて料理するのが自然だと考えるようになりました」と、高谷さん。また、昔ながらの居酒屋の中には、つまみとしてすしを出す店も意外とあることに気付き、食材の魅力を柔軟に表現できる酒場の可能性に後押しされたことも理由のひとつだ。

高谷謙一さん

高谷謙一さん。自らも釣りにも出かける(時にはモリで突く漁も!)。近年は仲間とともに、パリで燗酒イベントなどを主宰する。

例えば、水揚げの際、網に一緒にかかるマイナーな品種や数が揃わない地魚類。なじみのない魚は注文されにくく、メニューにも載せづらい。味は良くても“流通にのらない魚”になりがちだ。そんな魚たちを、たとえ一尾の仕入れでも料理にできないか。そう考えた末に思いついたのが、「すし」だった。量が少なくてもある程度の数が取れるから料理として成立し、メニューに載せられる。何より「すし」であることが、食べる人の満足度を上げる。本来なら修業が必要な世界だが、「技術で張り合うのではなく、魚の状態を見てさばく、手入れする、熟成させる。自分たちの手仕事をきちんとやれば、お客様にも喜んでもらえます」。

エビスダイ

エビスダイ:鮮やかな赤色の鱗を持つ。マダイと比べて頭部が大きい。甘味がありおいしいが、鱗が硬く扱いにくいため、あまり出回らない。

かくして、近所の鮮魚店「魚菜屋」で一期一会の“たね”に出合う毎日が始まった。エビスダイ、ヤガラなど、店主が小田原で仕入れた魚を購入。2貫500円台に設定した。結果は、自店では上々。地魚以外にも種類が増えた。「流通にのりにくい魚を利益のある料理にすることで食材を活かす。料理人として食材とのコミュニケーションに『握る』という選択肢が増えることで、今まで仕入れが難しかった魚を楽しめます」と高谷さん。「技術はまだまだ未熟ですが、居酒屋の一品として上達していけるよう努力を続けます!」

たねは近所の魚屋

たねは近所の魚屋で購入
老舗鮮魚店「魚菜屋(さかなや)」(☎0422-71-0440)。友人が勤めていたのをきっかけに、付き合いが始まる。店の魚はほぼ、この店で購入。

小田原の新鮮な朝獲れ魚

小田原の新鮮な朝獲れ魚!
仕入れは、早朝から店主自らせりに向かう。旬の魚はもちろん、“メジャーでなくてもおいしくて面白い魚”をモットーに仕入れる。

頼りになるプロの知識

頼りになるプロの知識
高谷さんの目的を知る店主。目的にかなう魚があれば積極的に仕入れてくれる。「わからない魚は、ほぼこの店で教わりました」


高谷さんの地魚すし&etc.

エビスダイ

エビスダイ
皮ごと切ったエビスダイは、歯応えのある弾力が特徴。噛みしめる程じんわりと甘味が広がる。

背黒イワシ

背黒イワシ
小さなイワシは下拵えが細かいが、脂がのり旨味も十分。開いたイワシを重ねて美しく握った。

ヤガラ

ヤガラ
1週間前に仕入れたくちばしの長い魚。頭を落として冷蔵庫で寝かせた。ほんのり甘い甲殻類のような風味。

サワラ

サワラ
旬のサワラはバーナーで炙りに。余韻を残す甘さに、表面の香ばしいアクセントが重なる。

生ガキ

生ガキ
たねとしてはあまり馴染みのない生ガキも“つまみ寿司”として好評。ミルキーな甘味が燗酒と溶け合う。

イクラ軍艦

イクラ軍艦
自家製のイクラ塩漬けをたっぷりのせ、香りの豊かな青混ぜ海苔で巻いた軍艦。イクラの塩味の塩梅も秀逸。



にほん酒や

photograph by Kouichi Takizawa

◎にほん酒や
東京都武蔵野市吉祥寺本町2-7-13
☎0422-20-1722
17:00~22:00(土、日曜、祝日13:00~21:00)
木曜休
JR、京王井の頭線吉祥寺駅より徒歩8分
http://web-farmer.jp/ 

※営業時間・定休日が記載と異なる場合があります。事前に店舗に確認してください。

(雑誌『料理通信』2020年4月号掲載)


海洋資源を保護し、持続的に利用する
今日からできる気候変動へのアクション

国連広報センターが「SDGメディア・コンパクト」に加盟する日本のメディア有志とともに、気候変動対策のアクションを呼び掛けるキャンペーン「1.5℃の約束 – いますぐ動こう、気温上昇を止めるために。」を実施しています。料理通信はこのキャンペーンに参加し、食にかかわる気候変動への取り組みを国内外から紹介しています。

海洋生態系による「ブルーカーボン」が温室効果ガス排出対策として期待されています。海の資源を守り、大切に使うことは気候変動対策につながることから、6月は、海洋保全について考え、アクションを起こすきっかけになる記事をお届けします。

●ActNow! 今すぐできる『10の行動』

「ActNow」は、個人レベルでの気候アクションをグローバルに呼びかける国連のキャンペーン。どんなことが気候変動の抑制に役立つのか、身近な行動を10項目挙げています。「環境に配慮した製品を選ぶ」では地産地消が、「廃棄食品を減らす」では食品を廃棄せず使い切ることが気候変動の防止に役立つとされています。

環境に配慮した製品を選ぶ
私たちが購入するあらゆるものが地球に影響を及ぼします。あなたには、どのような商品やサービスを支持するかを選択する力があります。自身が環境に及ぼす影響を軽減するために、地元の食品や旬の食材を購入し、責任を持って資源を使ったり、温室効果ガス排出や廃棄物の削減に力を入れていたりしている企業の製品を選びましょう。
(国連・ActNowキャンペーン:気候変動の抑制に対して個人でできる『10の行動』より)
イラスト:Niccolo Canova

廃棄食品を減らす

廃棄食品を減らす
食料を廃棄すると、食料の生産、加工、梱包、輸送のために使った資源やエネルギーも無駄になります。また、埋め立て地で食品が腐敗すると、強力な温室効果ガスの一種であるメタンガスが発生します。購入した食品は使い切り、食べ残しはすべて堆肥にしましょう。

国連・ActNowキャンペーン:気候変動の抑制に対して個人でできる『10の行動』より)
イラスト:Niccolo Canova

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