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SDGs

ピッツァ窯の熾火を二次活用。東京・国領「ドンブラボー」

SDGs時代の薪火活用術05

May 30, 2022

text by Sawako Kimijima / photographs by Ayumi Okubo

クリエイティブなコース料理とピッツァというハイブリッドなスタイルで人気のイタリアン「ドンブラボー」。10年前の開業時に薪窯を導入した理由は、「調布市国領という郊外で営むにあたり、客層の幅を広げるためでした」と平雅一シェフ。経験を重ね、薪火の意味や効果への考え方を深める中で、最近はコース料理にも薪火調理を取り入れています。「クリエイティブな皿と薪火で食材を焼き上げたシンプルな皿、その対比が各々を引き立て合う。薪火が料理の幅を広げてくれます」。

目次






【なぜ、薪火?】時代を超えた薪火の絶対感

薪が燃える様子が流れるだけの番組が人気を博していると聞きます。僕たち人間は本能的に薪火へのノスタルジーや憧れを抱くのかもしれません。
人間が最も長く扱ってきた熱源が薪火です。人類の歴史という長いスパンで考えれば、ガスや電気の登場はごく最近のこと。薪火を見れば無意識のうちにほっとするし、薪火で調理するだけでおいしく感じる、そんなDNAが組み込まれていると考えてもおかしくないでしょう。
時代やトレンドを超えた強さでしょうか。新しい料理を生み出すことに一生懸命になっていると、ふと、こういう料理って、今は新しくても、年月が経てば古くなるしダサくなるよなって思えてくる。年齢を重ねるにつれ、自分ではクリエイティブと思っても時代とズレていくのは間違いない。対して、薪火には料理人人生を賭けてもいいと思える絶対感がありますね。

窯内で燃える炎が視界に入ってくると、不思議と温かい心持ちになる。


【設備】ピッツァ窯とポータブルグリルを併用

ピッツァとは別に料理でも薪火と向き合おうと思い、3年前にポータブルの薪火グリルを群馬県前橋市の「増田煉瓦」で造ってもらいました。本格的なグリルを設置するには厨房の構造や設備から変えなければならない。まずは薪火調理の感覚を養う目的で導入した練習用です。これが思った以上に実用性が高く、練習用と言いつつ営業の中で活用しています。

22.5×30×35cm、コンロひと口サイズのポータブル薪火グリル。把手の付いたトレイに熾火を入れて差し込む。差し込む位置が4段あって、段を変えることで、火力の調整ができるスグレモノ。

ピッツァ窯は、10年前の店の開業時に導入した日本橋浜町にある山宮かまど工業所製の薪窯。うちはあくまでレストランであってピッツェリアではないので、直径28cmのピッツァ生地が2枚入る中型サイズです。重要なのは、キッチンと薪窯の連動性ですね。

店は一度改装しているが、窯は10年間変わらずに使い続けている。

薪は日本橋浜町の風見燃料店からスギ材とナラ材を仕入れる。


【技法その1・ピッツァ窯】全要素を1分半に落とし込む

窯に火を入れるのが朝9時30分。昼の営業は12時からですが、スタッフの練習や試作もあるため、2時間半前から窯を温め始めます。ちなみに前夜の22時30分に窯の火を落として蓋を閉めていますが、朝の時点で窯内の温度が250℃はある。
灰は1週間捨てずにためておきます。保温の意味があるからです。灰の上にスギの細い薪をくべて火を熾し、火の核ができたら、ナラの薪を2~3本、通気を考えて組み上げます。燃え加減を見ながら、ほぼ20分に1本ずつナラ材を足していく。スギは軽くて燃えやすいので、熾す際の焚き付けや、炎に勢いや変化をつけたい時のカンフル剤として用いる。熱量と持久力をナラ材が担うという使い分けですね。

朝9時30分、細いスギ材(軽くて燃えやすい)を数本、前日の灰の上にのせて着火。

火の核ができたら、ナラ材(火力が安定して強い)を投入。内壁を舐めるように炎が立ち上がり、熱の対流を起こして窯内を温めていく。

薪を燃やし続けながら、炎の横で生地を焼くというのがピッツァ窯の特徴です。生地に直接触れる炉床の熱と窯内を対流する450~500℃の熱で焼成することになります。時間にして約1分30秒。生地の裏を焼き切り、上にのせたチーズとトマトソースとオリーブオイルが絶妙の乳化を見せたタイミングで取り出します。ピッツァがメインのランチ時は何枚も立て続けに焼くため炉床の温度が下がりますし、コースの締めにピッツァというディナーのシチュエーションでは窯が高温を保っている。その時々の調整が焼き手に求められることになります。ほんの少し焼き過ぎただけで水分が蒸発してジューシーさが失われるので、瞬時の見極めが肝心です。トマトソースの濃度や量、のせるチーズの塊の大きさと配置、窯内の薪の燃え加減、生地を置く場所など、すべての要素が1分半でピタリとはまらなければならない。窯に入れる枚数が増えれば、時間も変わります。ピッツァの構成要素と薪火の構成要素、双方の兼ね合いが見通せるようになるにはやはり経験を重ねるしかありません。

ドンブラボーでは、炉床の左側で薪を燃やし、右側にピッツァを置く。

炉床の温度は場所によって異なり、当然、奥のほうが熱い。状況を見ながら、置く場所を判断する。生地裏までしっかり焼くのがドンブラボー流。

チーズ、トマトソース、オリーブオイルが混じり合って乳化したタイミングで取り出す。チーズやトマトソースを使わないシラスのピッツァなど、食材によって見極めが必要だ。

窯内の薪火の状態と温度を把握しておくことで、生地と食材への火入れをピタリと決める。


【技法その2・薪火グリル】近火と遠火を駆使する

ピッツァ窯の熾火を活用して食材を焼くポータブルの薪火グリルは、ピッツァの薪窯があればこそかもしれません。
ズッキーニや豚肉などの食材がシンプルに焼くだけで充実した味わいになるのは薪火の力でしょう。

熾火をセットして、焼き網にオイルを塗って、食材をのせます。豚肉のローストの場合、150gの塊を20分ほどかけて火入れしますが、最上段で約7分、その後、熾火を最下段に移して、表裏側面を何度も返しながら焼き上げます。
近火で表面を焼き固め、遠火でじっくり火を入れていくわけです。

ピッツァ窯の熾火をグリルの熾火トレイに入れる。

最上段にセットして、豚肉の表面を焼き固める。

こんがり焦げ目を付けつつ、肉汁を閉じ込める。

熾火を最下段に移して、遠火でじっくり焼き上げる。やわらかい熱が食材全体を包み込むので、食材にストレスがかからない。脂が落ちると煙が上がって薫香が付く。

ピッツァ窯は熱を覆い込む構造だから、温度も熱圧も高く、食材にプレッシャーがかかる。体積のある食材の場合、中まで火が入らないうちに表面が焼き固まり、焼き焦げてしまいます。その点、グリルは開放空間で焼くため、塊のままの食材にゆっくり火を入れられる。
また、薪火と炭火を比べると、僕の感覚では、炭火は点の熱、薪火は包み込む熱。炭は硬くて乾いた熱がピンポイントで当たる。だから、小さな肉片の焼き鳥にはちょうどいい。薪火は水蒸気を含んだやわらかい熱が面で食材を包み込むため、大きな塊にゆっくり時間をかけて火入れするのに向いていると感じます。


【食材】塩味を減らして風味と旨味を上げる生地の配合

ナポリピッツァを食べていて、気になったのが生地の塩味でした。生地に塩味を効かせ、ソースや具材の味は淡く抑えて、下から突き上げるようなインパクトで食べ手を魅了する。でも、うちの場合、コースの最後に食べるピッツァとして、その生地の塩味では強すぎると考えました。生地の塩味を落とした方がいい。但し、インパクトは落とさぬよう、風味と旨味を上げるために、全粒粉を配合し、水ではなくホエイとタマネギ水でこねています。粗い粉が加わって、つながりが悪くなるから、低温長時間発酵を2日間施すことでしっかりつなげる。すると生地の旨味も増し、焼いた時にメイラード反応が起きやすくなって、香ばしさも増します。

全粒粉を配合しているため、生地が伸ばしにくい。台の上で丁寧に押し広げていく。

チーズ、トマトソース、オリーブオイルが混然一体となって乳化するような分量と配置を計算してのせる。


【ヴィジョン】人間の本能に応える調理法である

2020年に「ドンブラボー」の近くに「クレイジーピザ」という姉妹店を始めて、今年2月、神楽坂に「クレイジーピザ」2号店を出店しました。神楽坂の店では電気窯を使っています。電気窯には電気窯の意味があり、味わいのゴールがあると僕は考える。昨秋、伊勢丹新宿店のイタリア展に出展した際、店と同じ生地を電気窯で焼いてみたところ、薪窯で焼いた時よりも風味を強く感じたんですね。薪の香りにマスキングされず、生地の味わいがダイレクトに感じ取れるからでしょう。そのメリットをより打ち出すため、電気窯で焼く生地は、全粒粉をより粗めに挽き、配合も増やしています。

実のところ、東京で薪を使うことに100%納得がいっているわけではありません。
断熱や防火、排気などを厳重にする必要があり、その設備費は決して小さい額ではない。薪を扱うスキルが求められ、日々の営業においても薪ならではの手間や時間がかかる。設備、費用、人材の面でサステナブルと言えるのか、自問自答します。どんな物事も見る角度によってサステナブルだったり、サステナブルじゃなかったりするけれど、都市における薪火はトータルで見るとサステナブルじゃないかもって思わなくもない。

排気は万全。都市部の薪火調理には、熱と煙をスムーズに外へ出す設備が不可欠。

ダクトは建物の屋上まで設置するのが基本。近隣に熱も排気も及ぼさない。

それでも薪火と向き合ってみたいと思うのは、冒頭で述べたように、人間が食べる行為の根底に薪火があるんじゃないか、人間の本能に応える調理法なんじゃないかって思うからです。



平 雅一(たいら・まさかず)
1979年、東京都生まれ。広尾「アッカ」で大学時代からアルバイトとして働き、そのまま社員になって、イタリア料理の基礎を学ぶ。イタリアへ渡り、フィレンツェ「ラ・ テンダ・ロッサ」、ミラノ「サドレル」、シチリア「リストランテ・ドゥオーモ」など、星付きレストランを中心に修業。帰国後、田窪大祐シェフが営む「リストランティーノ バルカ」の立ち上げに加わった後、三宿「ボッコンディヴィーノ」のシェフを務める。2012年6月、調布市国領に「ドンブラボー」をオープン。ピッツァはイタリアの食堂や「ボッコンディヴィーノ」で経験を積んだ。

◎ドンブラボー(Don Bravo)
東京都調布市国領町3-6-43 
☎042-482-7378.
12:00~14:00LO *ピッツァもしくはパスタのセット
18:00~22:00LO *シェフのおまかせコース
水曜休、月2回不定休
https://www.donbravo.net/

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