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災害時に温かい食事を提供するシェフ組織
World Central Kitchenの草の根戦略

―災害時の食と栄養― 5

Sdgs Aug. 2, 2021

text by Yuki Kobayashi / photographs by World Central Kitchen

「ワールドセントラルキッチン(以下WCK)」という非営利の組織があります。2010年のハイチ大地震時の食事提供をきっかけとして設立され、被災地や戦禍の人々に温かい食事を提供してきました。2017年のプエルトリコにおけるハリケーン被害、2018年には米カリフォルニア州の大規模山火事、昨年、横浜港に停泊を余儀なくされたダイヤモンドプリンセス号での食事提供でその存在を知った人もいるでしょう。 本拠地はアメリカ、創設者はスペイン出身のホセ・アンドレス、2018年の米TIME誌「最も影響力のある100人」にも選ばれたシェフです。コアメンバーは50人程度ながら、2020年の主な活動だけでも5カ国で3380万食というスケールを誇ります。
災害食やシェフによる食事支援が注目を集める今、World Central Kitchen事務局のハビエル・ガルシア氏に、災害時の食事支援の運営法を聞きました。



2020年の主な活動
・アメリカ、スペインで、コロナ禍による困窮者に3300万食
・グアテマラ、コロンビアで、ハリケーン・エタ、ハリケーン・ロタの被災者に30万食
・米カリフォルニア州、オレゴン州の山火事被災者に 6万8000食
・米ルイジアナ州でハリケーン・ラウラ被災者に16万2000食
・米アイオワ州の暴風被災者に1万3000食
・レバノン・ベイルート港爆発事故の被災者に19万食






「最初に誰とコンタクトを取るかは重要です」

――はじめにコロナ禍での活動についてお聞かせください。世界中の自然災害や戦争の被災地で活動してきたWCKですが、コロナ禍はこれまでに経験のないものだったと思います。外出禁止の中、どうやって支援が必要な人々を探したのですか?

スペインの例でお話ししましょう。
まず、社会的弱者の支援団体や貧困層地区の隣人協会などにコンタクトを取ることで、地域の状況を把握しました。ロックダウン中は、外出禁止のため、温かい食事を配給場所で提供できない。そこで各家庭に届けることにしたのですが、包材に入れて配達するのはWCKの活動では初めてでした。

調理の人材を集めるにあたっては、飲食専門のコンサルティング会社「Mateo& Co.」(*注1)の社長パトリシアにコンタクトしています。彼女がよく知るシェフたちに声をかけ、そのシェフたちが仲間に声をかけて、調理ボランティア人材は増えていった。結局、緊急事態が始まってからの食事提供は18都市、毎日全国2000カ所、計3万人のボランティアを数えました。うち20%が料理人という内訳です。

また、食品流通を担っているのは誰かを探し当てることも重要でした。スペインでは「Makro マクロ」(飲食業界向け大手流通会社)がロックダウンで売上が突然ストップしていた。彼らの食材を買えば一石二鳥だし、地元の物を使うわけですから、フードマイレージもかからず、地域経済に還元できると考えました。
もちろん食材は購入します。財源は寄附金が主体で、個人や企業から食料の寄附もありましたし、食糧バンクも大きなサポートをしてくれました。


WCKの創設者、ホセ・アンドレス。コロナ禍の前はこんなふうに作りたての温かい料理を提供していた。


弁当スタイルでもできるだけ温かい料理をと心を砕く。


それからホワイトボードの前で考えたのです、どうやって配るか?
皆が外に出られない状況の中で誰が配るのか? 地域を知っていて、それぞれの家を訪ねられる職業は何か? 郵便局員だ! 「郵便局員が知り合いにいるよ」という人を見つけて、郵便局員に電話をかけてもらう。「食べ物を必要なところに届けたいんだ」と言えば、動いてくれる人がいるものです。いつの間にか郵便局員のボランティアが集まり、それを見た他の都市の郵便局員もボランティアで集まり始める、という調子でした。警察官や消防士が手伝ってくれることもありましたが、行政としての参加ではなく、みな個人としての参加です。


郵便局員が個別配達を担った。みな個人意志によるボランティアだ。




「そこにある人材・食材・流通を利用する」

――災害時のオペレーションは困難の連続だと思います。何が重要なのでしょうか?

大災害があると、飛行機で救援物資がどんどん届くでしょう? 誰がどうやってさばくのか、誰も知らなかったりする。災害の後、何年もの間、空港の滑走路に水のパックが残っていたなんてこともありました。
私たちはそういう状況を作り出したくない。だから、メンバーが1人現地に入って、現地の物と人でまず50食から始めてみる。次は80食というふうに増やしていく。

ローカルの食材・人材・流通を利用するというのがWCK活動の基本です。「地元で供給できるものを探す」をモットーとしています。地域に根付いている団体、隣組でも教会でもいいから、そこの住民をよく把握している団体を探し出して、パートナーシップを結ぶのです。
たとえば、横浜のダイヤモンドプリンセス号は迅速に事が運んだ成功例でした。1人のWCKメンバーが現地に着き、ホテルに入る。フロントで「ところで、おたくの厨房はどうですか? 稼働していますか、使えますか?」と聞く。「いいえ、うちのは貸せないけど、隣のホテルなら大丈夫かもしれない」。そうやって探していく。言葉がわからないなら、言葉がわかる人を探してくる。


横浜港ダイヤモンドプリンセス号の乗員乗客に提供する料理の仕込み風景。



【動画】現地入りしたWCKメンバーがダイヤモンドプリンセス号に食事提供するまで(英語配信)


――多数のボランティアをはじめ、関わる人々のコミュニケーションはどのように取るのでしょう?

スタッフ間のコミュニケーションにはメッセージアプリのWhatsAppをよく使います。しかし、災害になると、電波が届かないことも多い。チームが調理に行って、配達に行って、帰ってくるまで状況が何もわからないこともあります。時間がかかってでも、フィードバックは来ますから、そこから量を増やしたり、もっと大変な地域があることがわかったりするのですが。
ハリケーン災害のプエルトリコの小さな村では、村人に配給場所を伝えるために、ラジオ局を探し、ラジオ放送で配給を伝達しました。災害によって状況はまったく変わるので、マニュアルはありません。状況次第であらゆる方法を探し出します。

食べ物を配給している団体だということ、そのシンプルさ、ダイレクトさが、私たちのコミュニケーションの利点です。コロナ禍ではロックダウンで道路が閉鎖、でも、マドリード中央市場は開いていました。一般人は外出禁止でしたが、僕らは中央市場にいる業者から食材を入手して運んだ。警察に止められても、僕たちには「食べさせる」という目的がある。それを伝えれば警察も理解してくれます。




「行動は下から始める」

――草の根運動とは信じられない、すばらしい展開スピードですね。

プエルトリコでの経験から学んだことは大きかったですね。
2017年、カリブ海を襲ったハリケーン・マリアによる被害は甚大でプエルトリコでの死者4600人以上とも言われます。しかし、人々がお腹を空かせている時、軍隊は会議をしていた。ホセ・アンドレスは軍隊が入る前から食事を配給していたというのに、その会議には呼ばれませんでした。それですごく怒ってね、「会議に時間を奪われるな」と。「プランニングをしている間にも腹を空かせている人がいるんだ」と怒りました。その時、私たちは「行動は下から始める」ということを学んだのです。


ホセ・アンドレスはエル・ブジで修業後に渡米、成功を収めた。彼を誇りに思うスペイン人シェフは多い。

隣人が隣人を助けるという行為は、大きなポテンシャルを持っています。
スペインの郵便局員のケースで言えば、「局の上司が書類に署名したから、私は食事を届けるんだ」ということではありません。もし、そうだとして、それが彼の満足を生むと思いますか? 局員は自分で判断し、自分で動いて、自分の隣人を助けたのです。その行為は、届ける側にも届けられる側にも力を与えてくれる。だから、私たちは省庁や政治家には頼みません。書類まみれになるだけですから。いつも下から始める。知り合いの知り合いの、というふうに。ボランティアの郵便局員は自分の意志で動いているのであって、WCKのために働いているという感覚ではないでしょう。いつも郵便物を届けているあの家に食事を持っていくのです。WCKは必要な食料を揃えるだけ。「何か必要なものはありますか?」と聞けるのは郵便局員なのですから。まるで細胞が育つように、私たちの活動は自然に広がっていく。団体としては、そのツールを渡しているにすぎません。

それは世界中どこでも同じです。協力する人々が僕たちの細胞の一つひとつ。動くのも成長するのも個人です。僕たちはムーブメントを作っているようなものですね。
駆けつけた土地で、いきなり大量の食事を配給するのは無理かもしれない。でも、私たちの方法で、土地のリソースを使って、量を増やしていくことはできるでしょう。マインドが土地の人に理解されれば、つなげていけるはずです。



「世界調理人部隊の実現のために」

――「世界調理人部隊」構想が進行中と聞きました。それについてお聞かせください。

マドリードやアメリカで、料理人に対して、災害時調理の講習を始めました。料理人は1週間で私たちのシステムを学びます。日頃80人に食事を提供している料理人がいきなり1万人の量はさばけない。まずは災害時の調理を学んでもらう。すると、習得したシェフは地元の緊急時にすぐに動ける要員になります。
緊急時の大量の食事のさばき方がわかっている人が、地域に数人いれば十分です。彼らが周囲のみんなに教えていけばいいのです。料理人は元々が厨房という規律の中で働いていて、ある程度のストレスにも耐え得る人たちです。シェフ同士のコミュニケーションはご存じのように容易ですし、普段からよくつながっている。
講習は年中行われており、様々な国のシェフが学んで、地元に帰っていきます。講習を受けたシェフに、1年間のうちの一定期間、緊急時の調理を担当してもらうプログラムもあります。災害現場に行ったり、地元のシェフ向けに緊急事態時の調理法を伝授するクラスを開いてもらっています。このプログラムを通じて、メンバーとその地元は技術をアップデートしていくことになります。

WCKは「食べさせる」ことが目的だから、ストレートに道筋がつくのです。「何をするか」が曖昧だとこうはいきません。私たちは「食べさせる」というミッションに尽力する。今日、食べさせるということ。それは、参加するみんなが自分のやっていることの意味をすぐに感じ取れる行為であり、自分の住む共同体にどんなインパクトを与えるかを目の当たりにすることになります。それがエンゲージメントを生み出すのです。



*注1
Mateo&Co社は、マドリードにある飲食専門のコンサルティング会社。近年、著名シェフや有名レストランのマーケティングで成功を収めてきた実績がある。マドリードを中心にシェフやレストランと密接に関わり、メディアとの関係も強い。スペインでは2020年3月14日にロックダウンが始まり、4月にはWCKがマドリードとバルセロナで生活困窮者や医療従事者に向けて食料供給を始めているが、その迅速な対応は同社がコーディネート役として入り、民間らしいフットワークによってセッティングしたことも寄与している。
ちなみに、スペインでは、20年ほど前から「サンセバスチャン・ガストロノミカ」「マドリード・フュージョン」などの料理学会が開催されているが、その運営には飲食専門のコンサル・広告代理店が関わっている。学会の開催によって、シェフ、生産者、飲食業者間のつながりが強く、マドリードやバルセロナではインフラの面でも整った環境にある。元々ボランティア精神が強く、連帯を求められると誰もが反応するような国民性もあり、レストランを開けられないシェフたちが大勢ボランティアに詰めかけた。



◎World Central Kitchen
https://wck.org/












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