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SDGs

「ラ・ヴィエイユ・フランス」木村成克シェフ×「FARO」加藤峰子シェフ

パティシエが地球にできること。

お菓子作りのサステナビリティ

Nov 19, 2021

【PROMOTION】
text by Sawako Kimijima / photographs by Masahiro Goda

来年創業100周年を迎えるフランスのチョコレートメーカー、ヴァローナが今年6月、「スイート・ガストロノミー ガイドライン」を発表しました。シェフの仕事のどこにどんな課題があり、どんな解決策があり得るかを示す「シェフのためのサステナブルの教科書」です。ガイドライン作成に協力した2人のパティシエ、「ラ・ヴィエイユ・フランス」木村成克シェフと「FARO(ファロ)」加藤峰子シェフの話を聞きながら、スイーツの現場でのサステナブルの実践法を考えます。

シェフのためのサステナブルの教科書

何をするにもサステナビリティが必須な時代です。でも、サステナビリティはむずかしい。お菓子作りの現場も例外ではありません。
「カカオやバニラなど遠くから運ばれてくる食材があります。また、キッチンではラップフィルムなど石油由来の素材が使われている。プラスチック素材が多いのは包材でも同様です」と指摘するのは、ヴァローナ本社CSR担当のジュリア・ホリデイさんです。
パティスリーの現場をサステナビリティの観点から見ると、改善すべき実態が横たわっている。でも、そこまで意識が及んでいないのもまた事実ではないでしょうか?

何がサステナブルで、何がサステナブルではないのか?――まず、それ自体がわかりにくいかもしれません。サステナブルとは一面的に判断できる事柄ではないからです。自分の手元ではサステナブルと信じて行なう行為が、社会全体から見ればサステナブルではなかったりもします。
また、カカオやバニラのフードマイレージが高いからといって使うのを止めたら、産地以外ではチョコレートを食べられなくなる。コーヒーだって飲めなくなる。人々の暮らしから潤いが失われ、人類が磨き上げてきた文化や文明を継承できなくなってしまいます。

最近、サステナブルではないからといって止めるのではなく、どうすれば負荷を軽減できるか、マイナスをプラスに転じられるかを考えようとする動きが出てきました。たとえば、イベントを開催したら、同時に植樹をしてCO2を吸収してくれる森をつくろう、といったように。

ヴァローナ本社のCSR担当、ジュリア・ホリデイさん。現職の前にはフードバンクで働いた経験があるなど、サステナビリティと向き合ってきた経験は豊富。

ヴァローナの「スイート・ガストロノミー ガイドライン」は、持続可能な道筋を探るための手引きです。
「多くのパティシエから『何をやればいいのか、わからない』という相談を受けていました。製菓材料と技術の提供だけでなく、サステナブルなお菓子作りのための視点や方法の提供も私たちのミッションであると考えました」とジュリアさん。
プロジェクトのスタートは2019年末。最初に取り組んだのは課題の洗い出しでした。
「お菓子作りの現場は多様です。パティスリー、ベーカリー、ホテル、レストラン、カフェ、アイスクリームやチョコレートの専門店、ケータリング・・・。環境も違えば、レシピも作業の流れも違う。素材や機材から作る量や提供のタイミングまで、様々な条件が異なります。それらを理解して、問題点を見出していきました」

その上で、フードサステナビリティのプロフェッショナルであるFood Made Good(サステイナブル・レストラン協会)の協力を得てプログラムを作成。プログラムの主軸を成すのは、世界各地で活躍する30人以上のシェフのインタビューです。
「多様な声をすくい上げるために、様々な地域と様々な営業スタイルから、サステナビリティに高い関心を持つシェフを選定。彼らの考えや取り組みをヒヤリングし、ガイドラインに落とし込んでいったのです」
シェフにはお菓子を通して人々の食生活に良い影響を与える力がある。その力が社会や地球に対して発揮されてほしい。ガイドラインづくりは、シェフと長きにわたって連携してきた立場にあるヴァローナだからこそと言えるでしょう。

「スイート・ガストロノミー ガイドライン」は「調達」「社会」「環境」3つのカテゴリー別に前向きな変化を起こすためのヒントやケーススタディが具体的にわかりやすく紹介されている。ヴァローナのWebサイトからダウンロードできる。


昔ながらの仕事の知恵と、未来へ向かう思考と。

ガイドラインづくりのためのインタビューに日本では8人が協力。その中から、東京・千歳烏山「ラ・ヴィエイユ・フランス」木村成克シェフと東京・銀座「FARO」で腕をふるう加藤峰子シェフの話を聞いてみましょう。

木村シェフは1987~1998年の11年にわたってフランスで修業し、昔ながらの菓子職人の仕事を知る数少ないベテランです。サステナブル意識はフランスの親方仕込み。
「フランスでは、水も電気も“パブリックな資源”という感覚があります。お金を払えばいいというものではない。必要な分だけ使うという意識が徹底している。親方が戦争を知っている世代だったこともあり、何かにつけ『無駄にしない』ことを教わりました。僕の身体にはその習慣が染み付いています。ボウルやヘラなどの道具はお湯をためた小さなバケツで汚れを取ってから洗うなど、節水の工夫は日常のこと。アイスクリームマシンは冷却水が大量に必要なのですが、排水されるその水を再利用できるようにマシンの構造を改造したり、無駄を出さない厨房環境づくりから心がけています」

機器を駆使して冷凍や冷蔵を多用する現代のお菓子作りは、多量のエネルギーを必要とします。ガイドラインのサステナビリティ・フレームワーク「環境」のブロックには、「英国の年間消費量では、ケーキだけで食品分野全体のエネルギー消費量の2%を占め、地球温暖化ガス排出量の1%を占める」*との指摘も。エネルギーの使い方が地球環境の悪化に直結することを心に留めて、師弟間の伝承に加えてパティスリー界全体でエネルギーの節約を考えていくことが大切かもしれません。
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2352550918303087

無駄のない職人仕事を日々実践する木村成克シェフ。

旬の果物や野菜をコンフィチュールにしてロスなく使い切る。旬の素材を使うことは、味や価格だけでなく、環境負荷を減らす上でも意味がある。瓶のリユースも開店当初から。

北海道・帯広の完全放牧の牛乳と三重県・伊勢の平飼いの卵。動物の生態に添うように飼育している農場の営みは、動物福祉の観点からも、動植物の生態系や生物多様性を守る観点からも支えたい。ガイドラインのサステナビリティ・フレームワーク「調達」のページに詳しく書かれている。

配送用の卵の包材は、回収・洗浄された後にリユースされる。厨房にあるものすべてを「資源」として捉え直すと、自ずと繰り返し使う姿勢が生まれてくる。


一方、イギリスやイタリアで育ち、3年前に帰国した加藤峰子シェフがとりわけ意識を傾けるのは食材とその生産現場です。帰国後の数カ月は生産者を訪ね歩き、日本における栽培や飼育の実態の把握に努めたと言います。
「生産者の考え方を知り、栽培法や飼育法を知ることは、その土地の未来の姿を知ることです。そして、どんな生産者の食材を選ぶかが、私たちの未来の行方を決める。だから、何かの食材を使おうと思った時、私は考えます。なぜ、この食材を使いたいのか? この食材でなければいけないのか? この食材を使うことにどんな意味があるのか? FAROでは、小麦、砂糖、卵、乳製品、果物など、素材の8割は信頼できる日本の生産者から取り寄せています。ナッツ類は私が育ったイタリアから。カカオやバニラはサプライヤーを通してそれらの生産国に頼らざるを得ませんが」

ちなみに、アーモンドはイタリアでひっそりと栽培され続けてきた在来種と原種を独自に輸入。ハチミツは希少な日本ミツバチの非加熱を用いるなど、選択の基準はあくまでもサステナビリティ。
「選択という行為が大切なのです。私は、世界に誇るべき在来種や絶滅危惧種の栽培に励む生産者や、100年後まで考えて土地を次世代につなげる仕事をしている生産者を応援したい。彼らの情熱を自分の仕事を通して伝えたい」

「知ること、考えること、選ぶことが大事」と加藤峰子シェフ。

デザート「日本ミツバチのポリリズム」の素材から。チョコレートはヴァローナ、アーモンドはイタリア産を使うが、小麦粉や甜菜糖、レモン、バナナなどは日本の自然農によるもの。どこで、誰が、どのように生産されたかを理解して選ぶことが作り手としての責任。地元産を使うことはフードマイレージを下げ、生物多様性の保護にもつながる。

「日本ミツバチのポリリズム」の素材から。自然栽培のダマスクローズ、カモミール、ジャスミン、オレンジフラワーを蒸溜・抽出してフラワーウォーターを作る。サステナブルな素材に限定する分、素材の探求が深くなり、使い方の開拓もなされる。

「日本ミツバチのポリリズム」。浮遊感のある泡、ウェットなピュレ、光沢のある硬質な破片など、異なるテスクチャーを白一色で構成。「同色に統一することでリズムを作り出す」と加藤シェフ。


サステナビリティとの向き合いが明日のお菓子をつくる。

サステナブルな取り組みはお菓子作りの現場に様々なメリットをもたらすとジュリアさんは考えています。
「無駄をなくす工夫はコストダウンにつながりますし、サステナブルであろうとする姿勢はスタッフがその店や会社で長く働き続けたいと思う動機になるでしょう。表面的な取り組みでなく環境や社会にコミットした活動であるとわかれば、お客様からの厚い信頼が得られるはずです」

“サステナブルへの入り口は普段の仕事の中にたくさんある”と気付かせてくれるのが、木村シェフの仕事でしょう。
「クロワッサン・オ・ザマンドやボストックは、元々、硬くなったクロワッサンやブリオッシュの再生菓子として生まれたもの。お菓子の成り立ちには無駄をなくす知恵や技が伝統的に組み込まれているんですね。僕が親方から受け継いで作り続けている『フィグ』も、チョコレート菓子の切れ端をためておいて作る、いわばフードロススイーツ。無駄を出さずに手間をかけておいしいものを作る職人魂のシンボルとして、開店以来、店に並べています。仕事で言えば、昔の菓子職人は割った卵の内側を親指でくるっとぬぐって、余すところなく使い切ったもの。ただ、そのひと手間をかけると時間もかかる。働き方改革が要求される中で、無駄をなくす手間をスタッフに求めるかどうかには葛藤がありますね」

チョコレート菓子の切れ端とマジパンで作るフランスの伝統菓子「フィグ」。

ショコラとフランボワーズのケーキ「ジョルジョ・サンド」にはヴァローナのエクストラ・ノワールを使用。切れ端は「フィグ」の一部に。

卵の殻に残った白身を指ですくう、親方から教わったもったいない精神。スタッフには強要しないが、自分で割卵する時は実践。

店は年中無休だが、月曜と木曜午後は製造スタッフが休みを取る。生菓子がなくとも焼き菓子やコンフィチュールで営業し、経営のバランスをとる。


一方、加藤シェフはサステナブルを追い求める中で新たなクリエイションを生み出していこうとしています。
「沖縄の自然栽培のバナナは皮まで食べられるのに捨ててしまってはもったいない。バナナの皮を発酵させるとバニラの香りがするので、ヴィーガンスイーツに使います。桃は皮に香気成分があり、ソースを作る時に皮を使うと奥行きのある味わいになる。種も加えるとさらに複雑になって面白いですね。また、日本特有の素材である葛は生産者の高齢化が進み、このままでは消滅しかねない。絶やしたくなくてアイスクリームに使うなどしていますが、凝固剤や増粘剤の役割を果たしてくれたり、様々な発見があります」

パティシエの発想や技術をサステナビリティに活かすのが加藤シェフのポリシー。取引のある生産者の食材を作柄に関わらずすべて引き受けるのは、パティシエの技術で使いこなそうと考えるから。
「コンフィチュールにする、果汁だけ使うなど、やり方はいろいろ。それが私たちの強みです。天候や虫や病気に左右されやすい自然農の農家さんが勇気を持って農業を続けられるかどうかは、私たちの姿勢とも関わっている」

オーブンの火を消した後の余熱で沖縄県産のバナナを丸ごとロースト。甘味が増し、ヴィーガンデザートに深みをもたらす。

自然栽培のバナナは皮も活用。炊飯器で発酵させると不思議とバニラのような香りに。

「サステナブルな菓子作りを実践しようと思うと、コストダウンできる部分がある反面、食材や機材の見直しなど投資が必要な部分もあるでしょう。しかし、店として会社として、社会的な評価と信用を得て、ブランド価値を高められるはず」とジュリアさん。「長期的な経営メリットは大きい」と指摘します。
「シェフ一人一人が自身のお菓子作りのサステナビリティを検証できるように、無料のオンライン自己診断ツールを用意しています。35の設問に回答すると、回答に対するアドバイスなどフィードバックをお送りします。何から始めればよいのか、また今後もっと力を入れるべき分野はどこなのか、など方向性も見えてくるはずです。ぜひ自己診断からチャレンジしてみてください」

▶スイート・ガストロノミー ガイドライン
https://valrhona.co.jp/pdf/valrhona_sweet_gastronomy_guideline.pdf

▶ヴァローナ オンライン自己診断
https://www.valrhona-audit.com/



木村成克(きむら・しげかつ)「ラ・ヴィエイユ・フランス」オーナーシェフ
大阪府生まれ。日本での修業を経て、1987年渡仏、ストラスブール「パティスリー・ネゲル」へ。パリ「ラ・ヴィエイユ・フランス」で親方のルネ・エルマベシエール氏に師事。リヨン「ショコラティエ・ベルナッション」、ミュールーズ「ショコラティエ・カプリス」に勤務後、パリ「ラ・ヴィエイユ・フランス」で日本人初のシェフ・パティシエ就任。1998年帰国後、数店のシェフを経て、2007年、修業先の名を掲げた現店オープン。

◎ラ・ヴィエイユ・フランス本店
東京都世田谷区粕谷4-15-6 グランデュール千歳烏山1階
☎03-5314-3530
10:30〜19:00、月曜・木曜は働き方改革のため11:00~17:00
無休
京王線千歳烏山駅より徒歩8分
http://www.lavieillefrance.jp/

 

加藤 峰子(かとう・みねこ)「FARO」シェフ・パティシエ
東京都生まれ。中学時代から日本を離れ、高校からはイタリアに居住。大学卒業後、『ヴォーグ・イタリア』を経て、製菓の世界へ。ミラノのケーキショップを皮切りに、「ブルガリ・ホテルズ&リゾーツ」「イル・イオーゴ・ディ・アイモ・エ・ナディア」「アルマーニ・ノブ・ミラノ」「オステリア・フランチェスカーナ」「エノテカ・ピンキオーリ」などで経験を積む。2018年帰国、「FARO」のシェフ・パティシエに就任。

◎FARO
東京都中央区銀座8-8-3 東京銀座資生堂ビル10階
☎ 03-3572-3911
12:00~13:30LO、18:00~20:00LO
日曜、月曜休、夏季(8月中旬)、年末年始休
各線新橋駅より徒歩5分
https://faro.shiseido.co.jp/

 

◎Food Made Good
https://www.foodmadegood.org/

[問い合わせ先]
ヴァローナ ジャポン 株式会社
https://www.valrhona.co.jp/

*ヴァローナ1922年創業のチョコレートメーカー。世界中のカカオ生産者との長期的なパートナーシップを尊重する高品質なカカオの栽培とチョコレートづくりのパイオニア。インターナショナルサイト(https://www.valrhona.com/en)のトップページには「A SUSTAINABLE COMPANY」のカテゴリーがある。社会や環境に配慮した公益性の高い企業に対する国際的な認証制度「B Corp(Bコープ)認証」を取得している。

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