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JOURNAL / 世界の食トレンド

トウモロコシ粉に熱い視線。トレンドを牽引するメソアメリカ文明由来の伝統製法とは?

America [Los Angeles]

2025.02.27

トウモロコシ粉に熱い視線。トレンドを牽引するメソアメリカ文明由来の伝統製法とは?

text by Kuniko Yasutake
古代中米食文化の製法を守るマシエンダ社のトウモロコシ粉は、ホワイト、ブルー、レッド、イエローの4種類。特徴は見た目のみならず、甘味や芳醇さ、香ばしい風味や食感などに現れる。メキシコ在来種のシングルオリジン(単一産地)商品へのこだわりが、大手メーカーとの違いの一つ。photo by Masienda

「ニシュタマライゼーション加工したトウモロコシ使用」と明記のあるトウモロコシ粉の加工品やメニューが増えている米国。このトレンドを牽引するのは、メキシコからの移民が全米一の都市、南カリフォルニアのロサンゼルスに拠点を置く「マシエンダ(Masienda)」社だ。

ニシュタマライゼーション(Nixtamalization)とは、メソアメリカ文明由来の伝統的な乾燥トウモロコシ加工法。水酸化カルシウムを含んだアルカリ水でトウモロコシ粒を茹で、そのまま長時間寝かせた後、水洗いで果皮をしっかり取り除く。するとビタミンB3などの栄養素が消化・吸収されやすくなり、グルテンを含まないトウモロコシに粘性をもたらすのだ。実を柔らかく挽きやすくさせ、トルティヤなどの主食の生地作りを可能にする。このプロセスを忠実に踏襲するマシエンダの目玉商品が、メキシコ産の在来種のトウモロコシ粉である。

米粉にも上新粉、団子粉、白玉粉などがあるように、トウモロコシ粉の種類も複数ある
米粉にも上新粉、団子粉、白玉粉などがあるように、トウモロコシ粉の種類も複数ある。ニシュタマライゼーションしていないトウモロコシ粉を加工する際、増粘剤やゲル化剤などのつなぎとなる添加物が必要になるが、マシエンダ社製トウモロコシ粉やトルティヤの原材料は、トウモロコシと水酸化カルシウムの二つのみだ。不溶性植物繊維を含む果皮を取り除く作業がしっかり行われているので、食後の膨満感が軽減される。1袋で直径15㎝のトルティヤを84枚作ることができる。photo by Masienda

ニシュタマライゼーションの起源については、調理中に燃料である木材の灰が鍋に偶然入ったという説や、石灰岩で作られた調理器具が存在した可能性などが指摘されている。現代の大手メーカーでは製造工程の時短化のために酵素を使用し果皮の除去作業を簡略化しているが、これではトウモロコシ本来の旨味が損なわれてしまうとマシエンダは考える。

マシエンダの成功の背景には、プラントベースやグルテンフリー市場の成長に加え、今やアフリカ系を抜いて現在全米人口の約20%を占め、さらに増加傾向にある中南米系住民の存在がある。またアジアやヨーロッパでもニシュタマライゼーション加工施設の建設が進んでいることから、今後世界的にトウモロコシ粉市場の成長が予想されているのだ。将来、メキシコ料理の枠組みを超えたトウモロコシ粉料理や加工食品が登場するかもしれない。

トウモロコシ粉「ホワイト」と人肌に温めた水を1:1(写真は各々1/2カップ)を混ぜ合わせると、1分ほどで簡単にしっとり柔らかな生地にまとめることができる
トウモロコシ粉「ホワイト」と人肌に温めた水を1:1(写真は各々1/2カップ)を混ぜ合わせると、1分ほどで簡単にしっとり柔らかな生地にまとめることができる。「耳たぶくらいの硬さ」と形容される白玉粉の生地のような手触りだが、粘り気はやや強めだ。これを焼いたり蒸したりすると、湯気から立ち上がるトウモロコシの力強い香りが鼻をくすぐり、濃い旨味と口溶けの良さが印象的な食品が出来上がる。photo by Kuniko Yasutake
メキシコ中・南部はトウモロコシの産地
メキシコ中・南部はトウモロコシの産地。マシエンダのウェブサイトでは、自社製品原材料のトウモロコシの他、取り扱いのある豆類の銘柄や原産地を「マサ・マップ」としてわかりやすく表示している。また契約農家の紹介や、生産者コミュニティのサスティナビリティを支援するマシエンダの活動についても詳しく伝えている。
創業者のホルヘ・ガビリア氏
社名の「マシエンダ」は、マサ(スペイン語で「生地」)とティエンダ(同じく「店」)を合わせた造語。“The Better Masa Company(あの旨い方の生地屋)”がキャッチフレーズだ。創業者のホルヘ・ガビリア氏は、メキシコとキューバから米国に移り住んだ両親のもとフロリダで育った。レストラン勤務を経て、おふくろの味を追求する中で起業し、2022年に出版したレシピ本『Masa』は複数の料理賞を受賞した。オンラインストアでは、純正トウモロコシ粉を手にした人が思わず欲しくなるトルティヤプレスといった調理器具や調味料各種も販売している。photo by Graydon Herriott

Masienda
Masa Harina全4種 $12/1kg(参考価格)
アラスカとハワイを除く48州で販売中。
https://masienda.com/

*1ドル=153円(2025年2月時点)

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