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FEATURE / MOVEMENT

食のバリアフリープロジェクト:FREEなレシピ 12

フレンチの特性“低糖質”を生かす。

「ミチノ・ル・トゥールビヨン」道野正シェフ × 糖質制限

2018.09.13

text by Hisayo Kisanuki / photographs by Shinya Morimoto

連載:食のバリアフリープロジェクト

テーマ:【糖質制限】

糖尿病をはじめ、様々な生活習慣病の予防や改善策として注目を集めてきた糖質制限食。
大阪「ミチノ・ル・トゥールビヨン」道野正シェフは、「フランス料理と親和性がある」と語ります。





米、小麦、芋、根菜、果物を避ける。

道野正シェフ。ロジカルに構築して、制限食とは意識させないメニューに仕立てる。



店を30年近く続けてきて、お客さんの年齢が上がるにつれ、「糖尿病で」「血糖値が高くて」などレストランから距離を置く人が増えてきました。そんな方々にも皆が集う祝いの席などでフランス料理を楽しんでもらいたい。そう考えたことが糖質制限食に取り組み始めたきっかけです。

専門医のセミナーを受けて、栄養学などの文献に数多くあたってみると、フランス料理は根本から糖質制限食のカテゴリーに入ることがわかった。糖質が増す原因は主に糖と炭水化物ですが、フランス料理は、日本料理や中国料理のように料理に直接加糖せず、麺類、小麦粉を使った生地などもほぼ使わない。元々が低糖質なんですね。通常通り砂糖を使わず、米や小麦、イモ類や根菜、糖質の多い果物などの素材を避ければよいのです。
残った課題であるデザートは植物由来の人工甘味料エリスリトールを、パンは大豆粉を使うことで、糖質を40~50g以下に抑えたコースを実現しました。

最初は「どんなものか食べてみたい」「ダイエットで」などの理由からオーダーがあったのですが、続かないんですね。レストランに来てまでややこしいものを食べたくないのでしょう。流行に乗って出回っている糖質制限食品のおいしさとはかけ離れたイメージも影響している。「このタマネギは使ってよいのですか?」とのお客さんの声に、無糖へと向かう極端な考えが見えたことも疑問でした。

糖質は悪くないんです。脳を働かすエネルギー源ですから。ただ取り過ぎないようにすればいいんです。
先ほどの理論から、「糖質を減らしたい」というオーダーにはすぐ対応できます。糖質の多い素材を避け、パンとデザートを控えめにすればよい。つまり、糖質制限をあえて掲げる必要はないと判断して、今は糖質制限コースとして設定するのを止めています。

今回の前菜は、糖質制限食のキー食材のひとつとして知られるココナッツで全体をまとめました。糖質の少ない野菜を選択して、アジをニンニクとココナッツでマリネし、香りの調和で充足感をもたらします。ソースにバターを使って脂質を加えることで、食後の血糖値の上昇を穏やかにします。
主菜は、「糖質さえ控えれば脂ギトギトのステーキでもOK、カロリーは気にしなくてOK」という極端な通説へのアンチテーゼです。あえて脂質の少ない部位をソテーし、チーズで香りを加味。
計測はしていませんが、通常の15%くらいに糖質を制限できているイメージです。



<RECIPE>

■アジと温野菜 ココナッツオイルのオランデーズとココナッツミルクの泡

アジはエスニック料理をヒントにココナッツとニンニクでマリネして風味をプラス。ソースと泡にココナッツを使用して全体をまとめている。泡に使ったエストラゴンの甘い香りが印象的。根菜を避けることで糖質をダウン。



◎材料と作り方(2人分)
<アジ>

アジ(20㎝)……1尾
ココナッツミルク……150ml
ニンニク(スライス)……2片
塩……適量
1 アジは3枚におろして小骨を取り、皮を外す。軽く塩をして、冷蔵庫で3時間置く。
2 ココナッツミルクとニンニクをミキサーにかけて、バットに入れる。水気を拭き取ったアジを1晩マリネする。
3 マリネ液を洗い流して水気を拭き取り、皮があった面のみバーナーで炙る。

<温野菜>
サパジート……1/2個
丸黄ズッキーニ……1/2個
カリフローレ……2個
ツルムラサキ……2本
フレンチドレッシング*……適量

*フレンチドレッシング(作りやすい量)
マスタード大さじ4、白ワインビネガー80mlをボウルで混ぜ合わせる。E.V.オリーブ油320mlを少量ずつ加えながら、さらに混ぜ合わせる。

1 野菜は適当な大きさに切り、1%の塩水(分量外)で茹でる。
2 フレンチドレッシングで和える。

<オランデーズソース>(作りやすい量)
卵黄……2個
水……20ml
白ワイン……10ml
白ワインビネガー……5ml
エストラゴン……3枝
澄ましバター……80g
ココナッツオイル……小さじ1
塩……適量
1 水、白ワイン、白ワインビネガーを鍋で沸かす。エストラゴンを加えて再度沸かす。
2 粗熱が取れたら、ボウルに漉し入れる。
3 溶きほぐした卵黄を加え、湯せんしながらホイッパーでかき混ぜる。
4 澄ましバターを少量ずつ加え混ぜる。ココナッツオイルを加え、塩で味を調える。

<ココナッツミルクの泡>(作りやすい量)
牛乳……100ml
ココナッツパウダー……大さじ1
鍋で牛乳とココナッツパウダーを気泡が出るまで温め、ホイッパーで泡立てる。

<組み立て>
アジを3つにカットして、温野菜と共に皿に盛り、オランデーズソースとココナッツミルクの泡を添える。





■和牛の心臓のソテー ロックフォールとライム 揚げナス添え

心臓はシンプルにソテーし、独特の香りをロックフォールチーズでカバー。ライムで爽やかさを与える。歯応えがある心臓に揚げナスという食感の対比を演出。糖質制限中でも赤ワインや蒸留酒はOKなので、ソースに赤ワインを使用。渋味のある赤ワインと好相性なひと皿に仕立てている。

◎材料と作り方(2人分)
<和牛の心臓>
和牛の心臓……160g
オリーブ油……適量
フライパンにオリーブ油を熱し、心臓の表面を焼き固めた後、180℃のオーブンで3~5分加熱する。

<ナス>
ナス……1/2個
サラダ油……適量
塩……適量
ナスを2等分して、サラダ油で揚げて皮を剥き、軽く塩をしておく。

<赤ワインソース>
赤ワイン……200ml
ポルト酒……20ml
フォン・ド・ヴォー……400ml
塩……適量
1 鍋で赤ワインとポルト酒を煮詰める(鍋肌に付くくらいまで)。
2 フォン・ド・ヴォーを加え、濃度が出るまでさらに煮詰め、塩で味を調える。

<仕上げ>
ロックフォールチーズ(5mm角)……20g
ライム果肉(5mm角)……1/2個
セルバチコ……適量

<組み立て>
心臓を8つにカットし、ナスと共に皿に盛る。ソースを添え、ロックフォール、ライム果肉、セルバチコを飾る。





◎ ミチノ・ル・トゥールビヨン
大阪府大阪市福島区福島6-9-11 神林堂ビル1F
☎ 06-6451-6566
12:00~13:30LO、18:00~21:00LO
月曜休(祝日の場合は翌日休)
昼3200円~、夜11000円~(税・サ別)
JR福島駅より徒歩5分
http://www.michino.com/





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