食のバリアフリープロジェクト:FREEなレシピ 11
乳製品を使わずとも完成度の高いガストロノミーを。
「Restaurant Etude」山岸啓介シェフ × デイリーフリー
2018.07.19
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text by Sakurako Uozumi / photographs by Manabu Matsunaga
テーマ:【デイリーフリー】
ヴィーガンメニューに取り組む中で、デイリーフリーとも向き合うようになったというパリの「レストラン エチュード」の山岸啓介シェフ。
その姿勢は、アレルギー対応でありつつ、新しいガストロノミー領域の開拓でもあります。
素材の仕立て方の創意工夫は、優れた生産者がいればこそ。
ヴィーガンメニューを始めたのが2年前。今では英米からのお客様を中心に約2割が注文されます。
ヴィーガンに取り組むうちに、元々しっかりした風味を持つフランスの食材に、コク出し的な意味合いの乳製品(牛乳、生クリーム、バター)は要らないと思い、レシピから乳製品を外しました。素材の風味を第一に伝える料理を目指す僕にとって、それは切り拓くべきひとつの領域と捉えています。
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ヴィーガンやデイリーフリーをハンデと捉えず、素材表現の一手法として果敢に取り組む山岸啓介シェフ。
心掛けるのは、「どの素材を前面に出すか」「どう面白くするか」「一つの素材でも調理法を変えて変化のある一皿を構成する」。
バター代わりに、オリーブ、アーモンド、クルミ、ヘーゼルナッツなどのオイルを、ミルクの代わりにアーモンドミルクや豆乳を、濃度をつける時はコーンスターチやジャガイモ粉(片栗粉)を使います。肉や魚料理のソースに使っていたバターは、肉の骨から取ったジュや、貝類のだしで代用できる。乳製品を外すことで、素材の輪郭がはっきりと浮かび上がってきたと実感しています。
デイリーフリーで展開していくには、良い生産者とのつながりが絶対条件ですね。現在2カ所の生産者と取り引きしていて、メインはパリ郊外キャリエール・シュール・セーヌに畑を持つティエリー・リアン氏。トゥール近郊で日本野菜を作る東海林杏奈さんからは、九条葱や聖護院かぶらなど旬の野菜を仕入れています。彼らのような生産者との出会いがあったからこそ、野菜を前面に打ち出しながら満足度の高い料理を作っていけると確信できた。
コースの構成では、野菜一つひとつの味の濃度にも細心の注意を払っています。味の強いものや濃いものは後半に持っていく。今の時期なら白アスパラガスでスタートし、次には短い筒状にしたポワロー葱にサフランのムースを詰め、熱々の野菜のブイヨンを注いだひと皿を。そして、グリーンアスパラガスのリゾット。最後はカブ。白い身はスライスして調味し、緑の部分はピュレ状にしてソースに。赤ワインでマリネしたウイキョウを揚げて添えます。
アラン・パッサールは野菜料理で一時代を確立しました。僕はさらに、野菜料理が乳製品を使わずとも完成度の高いガストロノミーとして成立することを証明したい。とびきりおいしい野菜にある程度手を加えても、「野菜のまま」に感じられてしまったら、お客様は納得してくれないでしょう。素材を生かしつつ、いかに手をかけ、いかに変貌させるか。相反するかのような命題に取り組んでいます。
<RECIPE>
■白アスパラガス+イチゴ+ルーコラソース カカオのクランブル
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ホワイトアスパラガスを、剥いた皮で取ったブイヨンで茹でる。青々とした風味のルーコラのソース、豆乳クリームで作るイチゴのクリームが引き立てる。
◎材料と作り方
<白アスパラガス>(4人分)
白アスパラガス……4本
1 白アスパラガスの皮を剥く。
2 たっぷりの水を張った鍋に皮を入れ、中火で約1時間煮て、ザルで漉し、茹で汁を取っておく。
3 本体は根元を1㎝ほど落として、2㎝幅の斜に切る。
4 2の茹で汁を火にかけて80℃に保ちながら、白アスパラガスを15~20分茹でる。
⇒茹で汁は「白アスパラガスのブイヨン」として<ルーコラのソース>でも使用する。
<ルーコラのソース>(作りやすい量)
ルーコラ……100g
白アスパラガスのブイヨン……100ml
1 沸騰した湯に粗塩(分量外)を入れて、ルーコラを茹でる。氷水に取ってから、水気を切る。
2 白アスパラガスのブイヨンと共にミキサーにかけ、シノワで漉す。
<カカオのクランブル>(作りやすい量)
米粉……100g
アーモンドパウダー……100g
カカオパウダー……12g
塩……2g
マーガリン*1……100g
*1 マーガリンは、ヒマワリ、アランブラキア(アフリカに分布するオトギリソウ科の植物)、亜麻仁、ココナッツなどを主原料とし、パーム油不使用でオメガ3がリッチな「Fruit d’Or 100% Végétal」(仏産)を使用。
1 全材料を混ぜ合わせて、天板に平らに広げる。
2 165℃のオーブンで30分焼く。
3 冷めたらクランブル状に砕く。
<イチゴのクリーム>(作りやすい量)
イチゴ……50g
豆乳クリーム*2……30g
*2 豆乳クリームは、「大豆舞珠(まめまーじゅ)」(不二製油)を使用。豆乳を主原料として、チーズのような発酵を施し、濃厚な旨味やコク、まろやかさを出したクリーム。
1 イチゴをミキサーでピュレにする。
2 1の半量と豆乳クリームを火にかけ、ゴムベラでかき混ぜながら熱する。とろみがついたら火から下ろし、粗熱を取る。
3 残りの1を加え、混ぜ合わせる。
<組み立て>
1 皿に白アスパラガスをのせる。
2 ルーコラソースを大さじ2、カカオのクランブルは適量を置く。
3 イチゴ(分量外)を4等分して飾り、イチゴのクリームを4~5カ所に絞る。
4 ブーラッシュの花と茎(分量外)を飾る。
■キャラメル+アプリコット
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アプリコットを、マリネ、ジュレ、カラメルムースと様々な仕立てにし、コリアンダー風味のサブレを柱に組み立てる。
◎材料と作り方(15人分)
<サブレ・コリアンダー>(30枚)
┌マーガリン……130g
Aカソナード……30g
│粉糖……40g
└塩……0.5g
┌米粉……40g
Bきなこ……10g
│コリアンダーパウダー……5g
└アーモンドパウダー……30g
豆乳……10ml
1 Aを混ぜ合わせる。
2 Bをふるい合わせて加える。
3 豆乳を加え混ぜ、まとめる。
4 麺棒で薄く伸ばして、直径5㎝のセルクルで抜く。うち半量はさらに中央を2㎝の丸型で抜き、ドーナツ形にする。
5 180℃のオーブンで10~15分焼く。
<アプリコットジュレ>(作りやすい量)
┌アプリコットピュレ……300ml
C
└水……25ml
┌砂糖……20g
Dペクチン……12g
└寒天パウダー……3g
アプリコットリキュール……5ml
1 Cを火にかけ、Dを混ぜ合わせて加え、かき混ぜながら熱する。
2 沸騰したら、シノワで漉し、リキュールを加える。
3 粗熱を取ってバットに流し固め、1㎝角に切る。
<アプリコットのカラメルムース>
┌アプリコットピュレ……80ml
E
└ココナッツカラメル*3……100g
┌砂糖……5g
Fペクチン……7g
└寒天パウダー……1g
ココナッツクリーム……60ml
*3 ココナッツクリーム100mlに砂糖100gを加えて火にかけ、カラメル状にする。
1 Eを火にかけ、Fを混ぜ合わせて加え、かき混ぜながら熱する。
2 沸騰したら、シノワで漉して冷ます。
3 ココナッツクリームを泡立てて合わせる。
<アプリコットのマリネ>
アプリコットピュレ……15g
粉糖……5g
アプリコット……3個
1 アプリコットピュレと粉糖を混ぜ合わせ、アプリコットを数分間マリネする。
2 半量をくし形に、半量を1㎝角に切る。
<タピオカ・アプリコット>(作りやすい量)
アプリコットピュレ……50ml
アプリコットリキュール……5ml
ナパージュ……10g
タピオカ……少量
すべての材料を合わせる。
<アーモンドクランチ>(作りやすい量)
ローストアーモンドクランチ……100g
グラニュー糖……20ml
水……少量
小鍋でグラニュー糖と水を熱し、カラメルを作り、アーモンドを加え混ぜる。
<組み立て>
1 皿の中央にサブレを1枚置く。
2 アプリコットのジュレを3カ所に置く。
3 サブレ中央にアプリコットのカラメルムースを絞る。
4 くし形のアプリコットを3カ所に配し、ドーナッツ形のサブレを重ねる。
5 角切りのアプリコット小さじ1をのせる。
6 タピオカ・アプリコット、アーモンドクランチを適宜散らし、泡立てたココナッツクリーム、板状の飴、チョコレート、セルフィーユ(いずれも分量外)を飾る。
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レシピ内で使用しているココナッツクリームと豆乳。
1980年以降生まれ 注目の若手シェフ
パリ・16 区 「レストラン・エチュード Restaurant Etude」山岸啓介 はコチラから
◎ Restaurant Etude
14 rue du Bouquet de Longchamp 75116 Paris
+33(0)1 45 05 11 41
12:30~13:30LO 20:00~21:30LO
土曜昼、日曜、月曜休
昼45ユーロ(同価格でヴィーガンコースあり)、夜80ユーロ(ヴィーガンコース60ユーロもあり)
メトロ6番線Boissiere駅より徒歩2分
https://restaurant-etude.fr/