食のバリアフリープロジェクト:FREEなレシピ 8
野菜で味を作る技。
「ベージュ アラン・デュカス 東京」小島 景シェフ × ベジタリアン
2018.04.19
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text by Kaoru Minokoshi photographs by Masahiro Goda
テーマ:【ベジタリアン】
フランス料理は、ひと皿の構成要素や調理工程が重層的です。ベジタリアン対応するには、フォン、ソース、コンディモンなど主素材以外のややもすれば“見えない部分”も植物性にしなければなりません。
それだけに、通常の料理とベジタリアン対応食、2 つを並行させると厨房は煩雑を極めます。
「フォンの取り方から変わりましたね」と語るのは、「ベージュ アラン・デュカス 東京」の小島景シェフです。
1. 昆布だし
2. 野菜のジュース
3. 野菜のピュレ
この3つを駆使することで、通常の料理もベジタリアン対応食もおいしく仕上げる方法を編み出した小島シェフに、野菜だけで奥行きのある味わい、満足感のある味の深みを出す術を教わりました。
「たとえ野菜だけでもフランス料理らしい味わいに達していることが大切」と小島シェフは言います。では、到達するための方法とは?
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2006 年に帰国してからずっと鎌倉の農家と連携を取り、鎌倉野菜を使い続けている。毎朝市場へ行って購入、自ら店まで運んできた。
昆布だしが大活躍
ベジタリアン対応にあたって、フランス料理店が考えなければならないのが、ブイヨンやフォンといった動物性だしの問題です。「ベージュ アラン・デュカス 東京」(以下ベージュ)では数年前まで、鶏のブイヨンをあらゆる料理に使っていました。フランス料理では当たり前のことです。でもある時、ふと違和感を感じたんですね。野菜の皿にも魚介の皿にも、鶏のブイヨンが入っていることに。
それでいったん水に置き換えてみました。今度は何か物足りない。私の鶏のブイヨンはクリアで、すごくあっさりしたタイプです。同じ感覚で使えるものはないかと考えて、海藻が思い浮かびました。北海道から様々な海藻を取り寄せて、ワカメ、青ノリなど試したものの、うまくいかず。昆布を使った時、これだ!と。昆布を煮出した汁で野菜に火を入れたら、もうばっちりでした。
昆布だしというと、日本を意識してのことと思われるかもしれません。そういうわけではないんです。20代前半から40代半ばまでずっとフランスにいたので、恥ずかしながら日本の事情に疎い私にとって昆布はまったくの新しい食材でした。予備知識がない分、構えず、感覚的に向き合えたのが、かえってよかった気がします。今は、北海道の南茅部(みなみかやべ)産白口浜(しろぐちはま)天然真昆布で、毎回40リットルのだしを取り、野菜や魚介料理に使っています。
通常の料理にはもう少しフランス料理としてのソースらしさがほしいので、昆布だしに焼いた鯛の頭を入れて煮詰め、動物性のコクとゼラチン質を併せ持たせます。
ピュレを様々に活用
野菜のピュレやソースも、ベジタリアンメニューのパーツとして重宝します。
「ベージュ」では、その時季においしい野菜を使って、ピュレを常時複数仕込みます。ベジタリアン用というわけではなく、魚介や肉の皿の構成要素として使うためです。たとえば、アワビにダイコンやホウレン草のピュレ、金目鯛にキャベツのピュレ、ホタテ貝にラディッキオのグリルやピュレ、といった具合に。
これらのピュレは昆布だしや植物性油脂と合わせてコンディモンやソースにも仕立てられますから、ベジタリアン対応としても有効です。いつもの仕込みの延長でできるので、厨房のオペレーションに混乱をきたさない点もいい。ピュレにする前に、・低温乾燥で味を凝縮させる・ミジョテで味の輪郭を与える・グリルやソテーで香ばしくしてからミキサーにかけると、厚みのある味が作れます。
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「ラディッキオとキャベツと大根、それぞれのピュレとホウレン草のソース」。苦味を持つ野菜で構成したメインディッシュ級の一品。火を通すことで甘味が生まれ、焼き付けてそれを香ばしさに変え、ひと皿の中にいくつもの味を折り重ねて、味の厚みを作る。
フレンチの技で味に膨らみを
味の奥行きや膨らみを表現するには、フランス料理のメソッドが役立ちます。
野菜の味をくっきり際立たせるには、ミジョテやココットローストといった火入れ法が効果的です。ミジョテは少ない水分で火を入れます。たっぷりの湯で茹でるとエキスが茹で汁に逃げますが、誘い水程度のごく少量の水分で煮れば、染み出したエキスと水分が煮詰まって野菜に絡まって戻っていく。みずみずしさを保ちながら、味の輪郭がくっきりします。
一方のココットローストは、水を加えず、密閉して加熱する調理法。野菜自身の水分で蒸し焼きにするため、染み出たエキスが全体に行き渡り、味も香りも逃がさず、風味濃く仕上げることができます。
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「季節野菜のクックポット」。ココットの中は、密閉日入れで濃縮させた野菜の風味が充満。野菜ジュースを極限まで煮詰めたソースと、庭に敷いた炒めタマネギが旨味を畳み掛けてくる。野菜の底力が味わえる一品。
味や食感を組み合わせる
ひと皿を構成する時、満足感を出そうとして、味の濃さを追い求めると、甘味に振れてしまう可能性があります。濃さよりも、様々な味のベクトルを組み込んで味の幅を広げることで、味の厚みを出したいですね。
ミジョテした上で焼き目を付けたダイコンに、ダイコンをいったん低温乾燥させてから煮戻した後にミキサーにかけた滑らかなピュレを添えると、ひとつのダイコンの味わいが3倍にも4倍にも膨らみます。調理法を的確に駆使して味や食感を重ねれば、野菜だけで肉や魚に負けない旨味を持つ料理が作れます。
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「季節野菜のミジョテ」。ミジョテとは弱火でことこと煮る調理法。ごく少量の昆布だしで煮ることで野菜のエキスを引き出し、その水分はすべて野菜に絡み戻す。濃厚なクルミとキノコのピュレ、グリーンピースの香りがはじけるソースを添えている。
SHOP DATA
◎ ベージュ アラン・デュカス 東京
東京都中央区銀座3-5-3
シャネル銀座ビルディング10F
11:30 ~ 14:00LO /18:00 ~ 20:30LO
月曜、火曜休
東京メトロ銀座駅より徒歩1分
http://www.beige-tokyo.com/ja/
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