世界のスーパーマーケット最前線――1
ミラノの未来型スーパーマーケット
2017.05.25
text by Yuko Suyama / photographs by Takehiko Niki
ミラノに、“SUPERMERCATO DEL FUTURO(未来型スーパーマーケット)”という名称を掲げたコープ(生活協同組合)がオープンしたのは昨年12月。野菜や果物を指差すと、ジェスチャーと音声で動くKinectセンサーが反応して、上部スクリーンに品種、生い立ち、旬の時期、カロリーや栄養成分などが表示される。詳しい情報を提供することで、納得して購入もらうばかりでなく、食材への興味や気付きを引き起こしたい、そんな願いが込められている。
ミラノ万博の未来予測が現実になった。
“SUPERMERCATO DEL FUTURO(未来型スーパーマーケット)”と銘打たれたコープ(生活協同組合)がオープンしたのは、ミラノ北東部ビコッカ地区。ショッピングセンター「ビコッカ・ヴィレッジ」の中にある。
これは、2015年のミラノ国際博覧会においてコープ館が発表した”Future Food District これからの食シーンを予測したスーパーマーケット”を実現したものだ。MIT(マサチューセッツ工科大学) センサブル・シティ・ラボのディレクターで、デザイン事務所「Carlo Ratti Associati」の共同設立者であるカルロ・ラッティ氏の協力によって開発された。万博で話題になった展示がリアル店舗として稼動し始めたことは興味深い。
一歩足を踏み入れると、広々としたスペースにやや暗めの照明で、通常のスーパーマーケットとは異なる幻想的で不思議な空気が漂っていた。
入ってすぐに野菜、果物、肉、魚などの生鮮食品売り場がある。その右手は低い商品棚が続き、店内全体を見渡せる。奥に設置された横長の巨大なスクリーンが目を引く。
食材を指差すと、上のモニターに情報が映し出される。
ゆったり並んだ生鮮食品コーナーの野菜や果物の上にモニターが設置されている。このモニターが、“SUPERMERCATO DEL FUTURO”を名乗る所以のひとつだ。マイクロソフトのKinectセンサーが内蔵されており、商品を指差すだけで、その商品に関する様々な情報が映し出される。たとえば、野菜の品種、生い立ち、旬の時期、カロリーや栄養成分……。
また、パスタや朝食用のシリアルの棚横のモニターを操作すると、IGP(保護地理的表示。風土に由来する優れた特質を持つ産品が表示できる)、有機商品など、近くに並ぶ商品に関する情報の他、アレルギー対策の情報も得られる。
「納得して商品を選択してもらえるよう、明確な情報を提供しています」と語るのは、ロンバルディア・コープ広報のアンドレア・ペルテガートさん。
知って選ぶ、知って買うことの積み重ねによって、ショッピングを通して食品に関する知識が自然に身につき、より望ましい食品とはどのようなものかを自ずと考えるようになることが、モニターの果たす役割だ。
「奥の巨大スクリーンには、ゆくゆくはレシピなども流す予定」とアンドレアさんは言う。
実際、学生たちが楽しそうにモニターを覗き込んでいる。聞けば、仲間とおしゃべりしていて、ビコッカのコープのテクノロジーが面白いと話題になり、遊びがてら見学に来たそうだ。
ヴィーガン、有機、小ポーション、糖質削減、グルテンフリー……社会のニーズに応える品揃え。
未来型スーパーのあるビコッカは再開発エリアである。重工業の工場が立ち並んでいた跡地に、ビコッカ大学やショッピングモール、18ホールの映画館、ゲームセンター、フィットネスクラブなどが建設された。マンションなど住居も次々と建ち、新しい活力に溢れている。
スーパーの店内では、フィットネスクラブに行く前の若い女性がリンゴ1個を手にしていたり、赤ちゃん連れのマンマが有機食品コーナーで離乳食を買い込んでいる姿も見受けられる。
アンドレアさんは、「ベジタリアン、ヴィーガン市場が急速に拡大している状況に合わせて、有機商品をベースに構成し、シングルや核家族のための小ポーションのサラダやフレッシュ惣菜を多様な品揃えにしています」と語る。
新興地区ということもあり、客層は20~40代を中心に、比較的教養が高く、健康な暮らしに関心がある人が大半。そんな人々に向けて、コープオリジナルの商品を中心として、ヘルスコンシャスな食品に重点を置き、栄養補助食品や糖質を抑えた食品、グルテンフリーのパスタなども豊富に揃える。
“平和のジャム” “自由な土地のワイン”、社会連帯感を反映した食材。
世界中にあるコープだが、イタリアでは社会的な取り組みも活発である。地域経済活性を目指して、牛乳や生鮮食材はまず地元産品を置き、次に州産品、国産品を並べる。ミネラルウォーターは、地元の水源地を優先させるため、店舗によってボトルの銘柄が異なるそうだ。
特徴的なのは、コープならではの社会貢献価値商品群。たとえば、フェアトレードのペルー産チョコレート、ボスニア・ヘルツェゴビナのスレブレニツァ大量殺戮で犠牲になった800人の未亡人たちが作る“平和のジャム”、マフィアから没収した土地で共同組合が生産した“自由な土地のワイン”など。値段は少々張るが、その商品を買うことにより、助け合う社会的連帯感が醸成されて、貢献していることを実感できる。
消費期限間近な食材は地元修道院の慈善食堂へ。
また、コープの社会連帯活動も重要な意味を持つ。無意味に捨て去られてしまう運命の食材を、有意義に活用することだ。消費期限が迫ってきた食材や、パッケージが汚れて商品として売れないものなどを、地元の修道院の慈善食堂や慈善団体の食堂と密にコンタクトをとりながら、必要な食材のリクエストに応じて寄付している。
環境問題にも敏感なコープは、店の前にミラノ市清掃局と協力して廃棄オイルの収集スタンドを設置した。ボックスに「1リットルのオイルを放置すると1平方キロメートルの土地を汚染する」と警告して、公害を防ぐ意識を喚起している。
もうひとつの特徴は、隣接するイートイン「フィオールフード」だ。使用するのはすべてスーパーで販売されている新鮮な食材で、ランチ時には120席ある店内が超満員、外まで行列ができるほど。近くのピッツァやフライドチキンなどのファストフードに対抗する大繁盛ぶりを見せている。
週末には、イートインの奥にステージを設けて、コミカルな演し物のイベントを企画し、アペリティーヴォと共に楽しめると好評だ。時には、イベント中にパスタを作り、その売上金をアマトリーチェ地震の被災者に送る社会的サポートもする。
コープのメンバーになれば、様々な特典も。
コープでショッピングするのに組合員になる必要はないが、25ユーロの会費を納めて組合員になれば、美術館やコンサートの割引、コープ・ドライブも利用できる。コープ・ドライブとはあらかじめオンラインショッピングしておけば、2時間後には店で商品が受け取れるシステム。車を専用のパーキングに入れて、その前にあるモニターに会員カードをかざすと、購入した商品をスタッフが車まで運んで来てくれる。手間が省けて、レジの列に並ぶことなく時間の節約にもなって便利と評判だ。
躍進するテクノロジーに伴って、ビコッカのコープも進化する。「近いうちに、指差すアクションをせずとも、商品の前に立つだけで、センサーが作動して、モニターに商品情報が映し出されるようになります」とアンドレアさんが教えてくれた。さらなるバージョンアップに、ますます目が離せない。
COOP
SUPERMERCATO DEL FUTURO
http://supermercatodelfuturo.e-coop.it/
Bicocca Village
Via Friedrich Von Hayek, 4 20126 Milano
☎ +39 02 64259641
10:00~22:00
日曜休