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JOURNAL / JAPAN

栽培も加工もできる限りナチュラルに。「オリーブ」

[岡山]未来に届けたい日本の食材 #22

2022.11.17

栽培も加工もできる限りナチュラルに。「オリーブ」服部幸應連載未来に届けたい日本の食材
text by Michiko Watanabe / photographs by Jun Kozai

変わりゆく時代の中で、変わることなく次世代へ伝えたい日本の食材があります。手間を惜しまず、実直に向き合う生産者の手から生まれた個性豊かな食材を、学校法人 服部学園 服部栄養専門学校理事長・校長、服部幸應さんが案内します。

連載:未来に届けたい日本の食材


日本のオリーブといえば小豆島が有名ですが、対岸の岡山にも古い産地があります。牛窓と倉敷です。すでに70年近く栽培を手掛け、工場の敷地も活用してオリーブを育てながら、グリーンオリーブのタプナードなど、新しい挑戦を続ける、「金辺オリーブ園」園長の金辺奘一(かなべ・そういち)さんを訪ねます。

金辺奘一さんは家業を継いで40年になる。

金辺奘一さんは家業を継いで40年になる。

数十本の小さい畑が2カ所、それから、乙島(おとしま)地区の工場2カ所の敷地内で300本近くのオリーブを育てています。 

工場内のオリーブ、とは何のことかとお思いでしょう。一軒は当時の工場所有者がヨーロッパでオリーブを気に入り、敷地を囲む植えこみに百何十本も植えたのが始まり。ただ、手入れがうまくいかず、面倒を見てほしいと頼まれて、もう40年以上になります。もう一軒は、別の工場にお願いして植えさせてもらったものです。オリーブの一番の敵は害虫ですが、山が近いと虫も多くなる。この辺りの工場は埋め立て地にあるので、瀬戸内にしては山が遠く、虫が少ない。農薬を極力使わずに栽培ができるんです。

オリーブは品種が多く、うちでは実が硬くて少し辛味があるミッション、オイルに向くアルベッキーナ、食味がよいマンザニロ、受粉木としても知られる、枝が横に広がるネバディロ・ビアンコがメイン。オリーブは1品種でなく、異品種を一緒に植えると実がなりやすい。収穫は9月から10月いっぱいくらいまで。オイルを搾る場合、青い実が3割ぐらい残っている段階で収穫するのですが、いつ摘むかを見極めるのが重要になります。

そもそもは、父が戦後何か新しいことを始めたいと、牛窓のオリーブ園を訪ねたのが始まりです。オリーブなんて、当時はあまり知られていないものでしたから、これはおもしろいと、小豆島の試験場(現・香川県農業試験場)の先生方に指導を仰ぎ、山の雑木林を切り拓いて苗木を植えたのです。ところが、70年近く経ってから土砂崩れを起こし、平地に新たに植えたのが4年前でした。

収穫は手摘みです。オイルに向くものは実を潰し、遠心分離機にかけてオイルを取ります。これが、50mlで2000本程度。高価にもかかわらず、毎年、楽しみにお待ちいただいているお客様が多く、あっという間に完売してしまいます。それから塩水漬け。父の代はヨーロッパのように発酵させていましたが、独特のクセが日本人にはなかなか受け入れてもらえず、今は発酵させていません。黒オリーブは塩水に浸けると色が抜けて薄茶色になり、後で鉄分を補って黒く戻すのが一般的なのですが、なるべく自然に作りたくて、うちは薄茶色のままです。それからタプナード。欧米では黒オリーブが多いようですが、うちはグリーンで作っていて、とても好評です。日本のオリーブならではのやさしい味わいを、多くの方に知ってもらえると嬉しいですね。


工場の緑化と減農薬栽培が同時に実現。瀬戸内の温暖な気候はオリーブの栽培に適しているが、山が近いため害虫駆除に農薬散布は必須だった。山から遠い埋め立て地にある工場の敷地を有効活用することで、害虫のリスクは軽減。実がなってから農薬散布をしなくても、きれいなオリーブが収穫できるようになった。

工場の緑化と減農薬栽培が同時に実現。瀬戸内の温暖な気候はオリーブの栽培に適しているが、山が近いため害虫駆除に農薬散布は必須だった。山から遠い埋め立て地にある工場の敷地を有効活用することで、害虫のリスクは軽減。実がなってから農薬散布をしなくても、きれいなオリーブが収穫できるようになった。

畑には複数品種のオリーブを混植している。木に穴を開けるゾウムシの害を予防するため、実がなる前、土から30cmほどの幹にほんの少し農薬をまくが、あとは除草剤も使用しない。

畑には複数品種のオリーブを混植している。木に穴を開けるゾウムシの害を予防するため、実がなる前、土から30cmほどの幹にほんの少し農薬をまくが、あとは除草剤も使用しない。

(写真左)工場を囲む植え込みで栽培されるマンザニロ種のオリーブ。ほかにアルベッキーナやミッションも植えられている。 (写真右)オリーブの塩水漬けは、薄い食塩水から、徐々に濃くしていきながら4カ月ほどで完成する。袋タイプはグリーンが740円、完熟(黒オリーブ)が790円(共に税込み)。

(写真左)工場を囲む植え込みで栽培されるマンザニロ種のオリーブ。ほかにアルベッキーナやミッションも植えられている。
(写真右)オリーブの塩水漬けは、薄い食塩水から、徐々に濃くしていきながら4カ月ほどで完成する。袋タイプはグリーンが740円、完熟(黒オリーブ)が790円(共に税込み)。


淡い食塩水に漬けたグリーンオリーブにオリーブ油、バジル、アンチョビー、ケイパーを加えたタプナード。塩味は穏やかで香り豊か。

淡い食塩水に漬けたグリーンオリーブにオリーブ油、バジル、アンチョビー、ケイパーを加えたタプナード。塩味は穏やかで香り豊か。

瓶入り塩水漬けオリーブ。左から完熟(¥1080)、グリーン(¥1080)、タプナード(¥1350)(すべて税込み)。

瓶入り塩水漬けオリーブ。左から完熟(¥1080)、グリーン(¥1080)、タプナード(¥1350)(すべて税込み)。


◎金辺オリーブ園
岡山県倉敷市玉島柏島1879-1
☎086-522-4697
https://kurashini-olive.jp/

(雑誌『料理通信』2018年2月号掲載)

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