飲食店は何のためにあるのか? 07
“お客力”がある店になるために。
「ザ・バーン」米澤文雄さん
2021.07.26
シリーズ【飲食店は何のためにあるのか?】
料理人として、食育活動から企業の商品開発まで、多方面で幅広く活躍する青山「The Burn」の米澤文雄シェフ。軽やかに時代を切り拓く、新しい料理人のあり方に見えながら、その原動力は、「人を喜ばせたい」というシンプルな思いです。店という空間を超えて、需要のあるところに自らの技術や経験を提供し、喜んでもらう。そのサイクルが社会との接点を増やし、楽しく働きながら危機管理にもつながっていました。
本企画は、食のプロたちに飲食店の存在意義や尊厳を問い掛けていくシリーズです。
問1 現在の仕事の状況
飲食業界はもっと一致団結していい
運営会社(ソルトコンソーシアム)の方針で、「ザ・バーン」では東京都の要請に従って営業しています。企業として、という以前に、お店とはお客様との信頼関係で成り立っているもので、お客様が安心して食事に来ていただける場所でありたいと考えるからです。
今回の“禁酒令”に関しては、アルコールを出すも正しい、出さぬも正しい。みなさん、それぞれ理由がある。先輩のシェフが「 “命令”ではないからと、各自で判断をするからまとまりがなくて、飲食業界は社会や政治家からなめられる。一致団結して要請に従ってみようよ」とおっしゃっていて、もっともな意見だと思いました。
ただ、国の対策の仕方も、もっとほかに考えられたのでは?とも思います。コロナの封じ込めか、経済活動か、どちらを優先するのか決めなくてはいけなかった。ゴールを見据えて推進するリーダーシップがほしかったですね。
民主主義の国なんだから、飲食業団体としてもっと声を上げたらいい。全国にいる数百万人の飲食業従事者がまとまれば、国政に出ることも可能かもしれない。一致団結することが今後は必要なのかもしれませんね。
問2 あなたが考える「飲食店の役割」とは?
料理は2位か3位でもいい
僕がザ・バーンでやっていることは、料理が1位じゃないんです。アメリカのレストランのような“抜け感”や遊び心があって、お客様も楽しみ方を知っていて。そんな空気感、居心地の良さを提供することが、1位。料理は2位か3位でいい。なので、料理やワインがあまり出過ぎないようにしています。
お腹を満たすだけだったらなんだっていいけど、そうではない。店というのは、料理を超えたいろんな要素でかたちづくられていて、その空間を味わってもらう場所。憩いの場、心のオアシスとして必要な場所でしょう。
問3 これからの時代、飲食店が存続するために必要なことは?
どういう料理人でありたいか、ビジョンを持つ
飲食店は今後、一定数は淘汰されていく。料理人が作りたいもの、食べてもらいたいものだけを出して成立する店はごく一部になるでしょう。
料理人ならば、オーナーシェフになって自分の城を持ち、毎日お客様に料理を作り続けるという王道があります。でも、これほど流行りすたりがあって、競争が激しい業界にいるのに、疑問を持つことなくそこを目指す若い料理人を見ると「それ、続けられますか?」って、心配になります。もちろん、ある一定数の人は続くと思いますよ。
僕は、オーナーシェフになるつもりは、今はありません。自分の店を持ったとしても3日くらいしか営業しないと思います。店で料理するのはもちろん好きですが、ケータリングやプライベートシェフをしたり、商品開発を手掛けるようなプロデュースの仕事も楽しくて。人を喜ばせるのがとにかく好きなんです。自分が培ってきた料理の経験や技術を軸に、自分の幅を広げながら、いろんな人たちと一緒に大きな輪を作っていく働き方をしたいから。
僕より優秀な料理人はたくさんいますから、そこで戦わなくていい。そのかわり、協調性を持っていろんな人と一緒にプロジェクトを動かしていくのは、人より得意。料理で自己表現するというより、人が欲しているものを考えて、提供して、喜んでもらうスタイルが僕には合っている。以前なら「ひとつのこともまともにできないで」と叱られるところでしょうが、今は「ダイバーシティ」という言葉が僕の味方になってくれる(笑)。
人には得意、不得意があるので、これからの料理人の働き方はこうだ、と提唱するつもりはありません。大事なのは、自分がどういうスタイルで働きたくて、どういう料理人でありたいのか、というビジョンを持つこと。料理人としてしっかり修業して、ちゃんとした基礎があることが前提ですが。
店の収益とは別に収入源を持つ目的もあります。収入源がひとつだと厳しいというのはコロナ禍を経験して誰もが感じたこと。これからも火事や地震、コロナみたいなパンデミックがまた起こるかもしれない。家族や従業員のためにも、別の収入源でしのげるように備えるべきです。
経済が悪化しても淘汰されない店になるには、時代を見て、人が何を欲しているのか、その人の気持ちを考えて、提供することに尽きると思います。お客様に喜ばれ、共感して、支えてくれるファンがいる、“お客力”がある店。そして、一致団結してがんばる仲間や応援してくれる味方がいる店は、生き残ることができる。
もし、この店がつぶれてしまったら、それは僕がそこまでいっていなかった、営業努力が足りなかったということ。その失敗を糧にもう1回やり直すだけの話です。
米澤文雄さん
NY「Jean-Georges」で日本人初のスー・シェフに抜擢。六本木「Jean-Georges Tokyo」料理長を経て2018年「The Burn」料理長に就任。13年米国大使館「Taste of America」日本大会優勝、15年RED U-35大会ゴールドエッグ受賞。レストランクオリティの菜食レシピを収録した『ヴィーガン・レシピ』(柴田書店)を上梓。
Instagram:@yone_asakusa
【動画】インタビュー・ダイジェスト版をご覧ください。
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