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飲食店は何のためにあるのか? 06

コロナ後こそ飲食店が必要になる。

「Café de Flore」 山下哲也さん

Feature / Movement Jul. 15, 2021


シリーズ【飲食店は何のためにあるのか?】

パリを代表するカフェ「Café de Flore」のギャルソンとして2003年から活躍を続ける山下哲也さん。昨年10月30日から半年以上にわたる休業を経て、5月21日、仕事に復帰しました。「仕事が快楽である僕としては舞台に立てない日々は辛かったけれど、ギャルソンとして原点回帰というか一回り成長させられた」と語ります。「今こそレストランの語源に立ち返る時。飲食業のルネッサンスのために力を尽くしたい」。



text by Sawako Kimijima





問1 現在の仕事の状況

復活の喜びを肌で感じています。

6カ月半ぶりに「カフェ・ド・フロール」に立った2021年5月21日という日を、僕は一生忘れないでしょう。この日、僕は、カフェのギャルソンとして給仕する喜び、僕たちが喜びをもって給仕に励む姿にお客様が喜ぶという悦びを実感していました。

フランスの飲食店は完全休業(テイクアウトを除く)を強いられました。「要請」ではなく「禁止」です。昨春3月15日から6月初旬に1度目の休業措置があり、2度目が10月末に発令され、12月初旬に「営業再開は1月20日以降」と発表されたものの、変異株の流行もあって、延期に次ぐ延期。「いったい、いつ、仕事に復帰できるのか?」と先の見えない不安に、不眠症、ストレス性急性じんましん、食欲不振などに苛まれることもありました。

それまで当たり前のように存在していたものが半年以上も止まったのです。喪失感が大きかった分、取り戻した喜びが大きいのは、僕たちもお客様も同じ。今、店は復活の喜びで満ち溢れています。まだ挨拶のハグは感染防止対策上できないけれど、再会を祝して握手を求めるお客様も少なくありません。コロナ禍に陥って以降、キャッシュレス化が進み、チップが減るという現実にも直面しているのですが、再会の喜びからチップを奮発されるお客様もいる。そんな些細なことにふと人間らしさを感じたりしています。


扉が閉ざされた「Café de Flore」。この店が開いていないと街は眠ったも同然。


パリは今、夏時間。仕事を終えた帰り道、充実感に満たされて見上げる夜空の碧色が美しい。



問2 あなたが考える「飲食店の役割」とは?

肉体を伴った人間の行為で成立している。

カフェという空間を舞台として、天候や社会情勢など常に一定ではない条件の中で、お客様の望み、本人すらも無自覚な要求を素早く察知し、誘導し、満足を与えるのがギャルソンの役割です。そのために、自分が立つべきポジションを絶えず意識し、より速くより美しく要望に応えられるよう、完璧を追求してきました。肉体の鍛錬から動作の探求、いでたちや立ち居振る舞い、ギャルソンという職業を突き詰めてきたと言っていい。「人間が最も感動するのは人間に対してである」が僕の持論――スポーツが格好の例で、人間の限界を超えるようなパフォーマンスに人は感動する――ですが、ギャルソンという職業でそんな境地を目指しているのかもしれません。
6カ月半、カフェに立てない日々を送って、自分は本当にこの仕事が好きなんだと痛感させられましたね。


踊るような身のこなしが美しい。photo by Shiro Muramatsu


愛用の「J.M.WESTON」。皮底の滑りを利用して華麗な足さばきで給仕する。最高のパフォーマンスのために休業中も手入れを怠らず、再開に備えた。

同時に、「飲食店とは何か?」をずっと考えていました。
レストランの語源は「(気力・体力を)回復させる、再生させる」という意味の「restaurer レストレ」です。つまり飲食店とは、人間が人間として再生される場所。コロナ禍で疲弊し切った人々と社会を回復させるために、飲食店はこれまで以上に必要になるはずです。ソーシャルディスタンスを課されてきた分、人間と人間がぶつかり合うライブな場所としても欲されるでしょう。コロナが終息したら、レストランの存在意義はこれまで以上に増すに違いない。飲食店のルネッサンスが興るはずだ。いや、興さなければ。自分はその担い手になるのだ――飲食店の原点回帰とギャルソンとしての原点回帰を果たすのだという意志が、先の見えない6カ月半を乗り切らせてくれたような気がします。

カフェのギャルソンに強い傾向ですが、「カフェに生命を吹き込んでいるのは自分たちギャルソンである」という自負があります。フランスのカフェは、空間があって、ギャルソンがいて、お客さんがいて、完成する。それはテイクアウトやデリバリーで代替できるものではありません。経営的な観点からテイクアウトやデリバリーが活発化するのは理解できるし、選択肢が増えるのは悪いことじゃない。ただ、個人的には、それだけじゃ面白くないだろうと思ってしまう。ひいきの店がデリバリーしてくれたとして、料理は味わえるかもしれませんが、それは店の断片にすぎない。人との関わりというよりモノの受け渡し。僕は意地を張って、休業中で自宅待機を強いられた6カ月半の間、友達や仲の良いシェフたちを案じながらも、ただの一度もテイクアウトやデリバリーを取りませんでした(笑)。

今、給仕をしていて、お客様の「ありがとう」という言葉のニュアンスがコロナ前と違うと感じます。 僕は、ギャルソンという仕事について語る時、意図的に「給仕」「給仕人」という言葉を使う。「飲食の席に侍して世話をすること、人」という意味です。飲食店が長く休業する中で、お客様も給仕される体験から一時離れたことにより、給仕される喜びを再認識してくれている空気が伝わるのです。


カフェはギャルソンがいて成立する。動かしているのは人間の肉体だ。



問3 飲食店の存続のために、今、考えていること。

「給仕」という仕事の価値を伝えたい。

去年の初夏、最初のロックダウンが解禁になったばかりのある日、カフェ・ド・フロールのすべての席が常連のお客様で埋まったことがあります。陽が傾きかけたアペリティフの時間帯のことでした。ものすごく濃密な雰囲気に包まれたその光景に思わず涙がこぼれそうになりました。コロナ前には観光客が多すぎて、地元の常連の足が遠のきかけたこともあったんですね。

20区で構成されるパリの街はそれぞれのカラーを持ち、同じ区内でもエリアによって性格が異なり、エリアごとにその色を映し出すカフェが営まれています。そしてカフェによって客層は違う。フランス人にとってのカフェとは、我が家のサロンであり、ゲストを招く場所であり、一人になりたい時に行く場所であり、待ち合わせの場所であり、いろんな役割があって、自ずと街に住む人々のカラーが反映されてくる。

フロールの場合、パリ中、フランス中、世界中から客が訪れますが、フロールをフロールたらしめているのが、政治、文学、芸能などあらゆるジャンルで各々の時代において煌めくフランス人の常連のお客様だという事実は否定しようがない。フランスの文化がここから生まれてきた歴史と伝統がある。
それを見たくて観光客は来るんです。フロールのギャルソンから英語で接客されてもうれしくないだろうし、フロールが観光客で埋まってしまったら、それはもうフロールとは言えません。そうなったら、観光客も来なくなるでしょう。

近年、日本に一時帰国する度に、とかくインバウンドという言葉が耳に入ってくるのが気になりました。自分たちのコミュニティをまず何よりも大事にすべきではないか。コミュニティの人間に支えられて店は存続し得るのです。地元の客に愛される店であることが存続の条件ではないでしょうか。

折にふれて、ダーウィンの『種の起源』を読むのですが、コロナの感染拡大が始まって再び読み始めました。フランスでも閉店に追い込まれた飲食店はたくさんあり、それは悲しいことだけれど、じゃ、コロナがなければ続いていたのかと考えると答えに詰まる。反感を買う言い方かもしれませんが、淘汰されるものは淘汰されるのだと思わざるを得ない。環境に順応する柔軟性が必要だろうし、存続し得るものが存続するのでしょう。

ギャルソンのメンタリティも変わりつつあります。まず、「ギャルソン」と呼ばなくなっている。代わりに「serveur サーヴァー」という言葉が使われることが多い。
思えば、この道に入った1990年代半ばに原宿・青山界隈でカフェのギャルソンをしていた仲間で、現在も給仕という仕事に就いている者は残念ながら多くはありません。時代やスタイルは変わっても、僕はこの仕事を残したい。「給仕」という仕事が続いていく環境をつくりたいと考えています。「給仕人」という職業の価値を伝えていくことも自分の役割と思っています。


【動画】インタビュー・ダイジェスト版をご覧ください。




山下哲也(やました・てつや)さん
1973年、東京生まれ。大学時代のアルバイトをきっかけにカフェのギャルソンの道へ。2002年渡仏。03年、パリの象徴とも謳われる名門「カフェ・ド・フロール」に控えのギャルソンとして立ち始め、05年、名実ともにメゾン所属のギャルソンとなる。フロール初のフランス人以外、唯一無二の外国人ギャルソンであり続けている。





◎Café de Flore
172 Boulevard Saint-Germain, 75006 Paris, France
https://cafedeflore.fr/















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