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JOURNAL / イタリア20州旨いもの案内

<番外編> パオロ・マッソブリオの日本滞在記

vol.3 葉山「森と畑の学校」

2017.02.20

鎌倉から車で30~40分。湘南国際村内の約15000坪(5ha)の荒地を開墾し、地域農業と里山を取り戻そうとスタートした「森と畑の学校」を運営する農業生産法人パラダイスフィールド代表、伊藤力さんを訪ねました。





伊藤:ようこそ、遠いところまでお越しくださいました。早速ですが日没が早いので、先に畑をご案内します。







伊藤:ここでは西洋ミツバチの養蜂をしています。日本のハチミツは加熱されているものがほとんどですが、うちでは生のハチミツを1Lあたり1万円で販売しています。1回の販売で200瓶詰めるのですが、2~3日で売り切れますね。

畑は鎌で草刈りをするところから開墾しました。3カ月刈ってやっと拓けたと思ったら、新しい草が生えてきて(笑)。物々交換で草刈機を手に入れ、ようやくこれだけ開墾したんです。



マッソブリオ:伊藤さんは、なぜ農業をやろうと思ったのですか?

伊藤:2012年に葉山の大きな農家さんから「もう農業は続けられない、お金にならない」と聞いて、本当に農業はもうダメなのか? と。東京近郊の観光地であり住宅地でもある葉山で、農家と事業家が手を組んで、地域や農業を元気にするモデルが作れないかと思ったからです。

マッソブリオ:その前は何の仕事をされていましたか?

伊藤:貿易関係の仕事です。30歳の頃、東京で立ち上げた会社を今は知人に任せ、僕は週7日こちらに来ています。楽しいけれど、金銭的には厳しいですね。
ここに週7日来ているスタッフの給料が月7万円、週2~3回のスタッフは月3万円、僕の給料は週100時間働いて月5万円です。

マッソブリオ:それで暮らしていけるのですか?

伊藤:自分の会社の役員報酬があるので。イタリアは農業で食べていけるんですか?

マッソブリオ:昔の農家がそうであったように牛を飼って、豚を飼って、野菜を育てて、さらに今は宿もやらないと食べていくのは難しいです。





伊藤:ヨーロッパでも野菜は安いんですね。うちも野菜を売っているだけではお金にならないので、農業体験やガーデンパーティなどのイベントを企画して収益を得ています。



伊藤:こちらが農園スーパーの会計所です。畑の野菜を誰でも自由に収穫してもらい、グラム数を自分で量って料金表の野菜の値段で計算して、お金を置いていくというシステム。僕らは帰り際に「今日はこれだけ売れたな」と確認するだけです。







マッソブリオ:イタリアでは考えられない……。畑で採れた野菜を利用して、レストランを開こうと考えたことは?

伊藤:将来的には。ただ、この土地では許可がなかなか下りないので、ガーデンパーティを開催したり、加工して瓶詰めにして販売しています。

マッソブリオ:伊藤さんの、ここでの活動の目標は?

伊藤:若い人たちが「パラダイスフィールドに就職したい」と思えるくらいの給料を払えるようになることです。







マッソブリオ:そのために、どんなステップを考えていますか?

伊藤:1年目はすべて持ち出しでした。2年目は200万円の売上、3年目は500万円、今年は1000万円の売上です。来年の目標は売上を2000万円にすることとスタッフの給料を上げること。農業部門と体験学校部門では、後者のほうがはるかに利益率が高いので、野菜づくり教室、瓶詰め教室、イベントなどを増やしていく予定です。





――伊藤さんが包み隠さず話してくれる言葉を、マッソブリオさんはじっと耳を傾け聞いていました。
イタリアで1年の2/3を生産者や料理人を訪ねることに費やしているマッソブリオさんの目に、日本の生産者を取り巻く環境はどう映ったのか?
彼らの会話は暗くなるまで続きました。





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