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FEATURE / MOVEMENT

食のバリアフリープロジェクト:FREEなレシピ 6

「味の六角形」を駆使して組み立てる。

「オギノ レッドアンドグリーン レストラン」荻野伸也シェフ × 無塩

2018.02.08

photographs by Hide Urabe

連載:食のバリアフリープロジェクト

テーマ:【無塩】

塩は身体の機能と深く関わりがある分、摂り方も重要です。
摂り過ぎれば生活習慣病の原因にもなるため、減塩は万人の課題。
今回は減塩を飛び越えて、あえて「無塩」をテーマに、塩に頼らない料理の可能性を探りました。


6つの味のバランスを取り、ボリュームが大きくなるように。

「オギノ レッドアンドグリーン レストラン」荻野伸也シェフ。アレルギー対応食の経験値が高い。

「無塩でお願いします」と言われて、「ハードルが高いな」と思わない料理人はまずいないでしょう。
下味を付ける、余分な水分を抜いて素材の持ち味を凝縮させる、味をまとめる、他の味を際立たせる……塩の役割は絶大です。そんな味覚の支柱なくしておいしい料理が作れるのか? 誰だって不安になります。

僕は腎臓疾患のお客様のために何度か無塩で料理する機会があり、その経験から学びを得てきました。と同時に、2011年からトライアスロンに挑戦するようになって、アスリートの立場からも食と向き合うようになりました。
タンパク質、脂質、炭水化物、ビタミン、ミネラル……何がどのくらい必要なのか、どんな摂り方をすべきなのか。栄養素と身体の機能という側面からも食事を考えます。低ナトリウムになれば、お腹が空いてなくてもガス欠になったり、足がつる、痙攣するといった症状が表れる可能性もある。どうせ塩を摂るなら、精製塩よりミネラル分の多い塩を摂ったほうがいいといったことも考えます。

僕の無塩料理の考え方は、実のところ、普段の料理のアプローチと変わらないんですよ。ここでご紹介するのは、実際にお客様にお出しして好評だったレシピです。

僕はフランス料理を「味の足し算」と捉えています。味を重ねておいしさを形作る。よく複雑な味わいとか、奥行きや深みがあるとか言われるのはそのためですね。音楽で言えば、単音でなく和音。相性の良い音を重ねていくと、壮大で美しいハーモニーが生まれるのと同じです。

その特性を把握しやすくするため、また、料理の組み立てを考えやすくするために、僕は「味の六角形」を頭の中に描きます。時計回りに、甘味、酸味、渋味、苦味、塩味、旨味で形作る六角形です*。
ここに、作ろうとする料理の素材の味をあてはめます。すると、味のバランスとボリュームが見えてくる。酸味が強いな、旨味に偏っているな。なるべく六角形の形が整うように、面積が広くなるように足していくわけです。

苦味を足すならケールやアンディーヴ、甘味ならパプリカやフルーツ、酸味ならレモンなどの柑橘。ドライフルーツを使えば少量で凝縮した甘味が、トマトは酸味、甘味、旨味のいずれをもプラスしてくれます。苦い野菜に甘いフルーツを加えると、膨らみと同時にまとまりも出ます。味の均衡が取れるのだと思います。

調理法で補強するのも有効です。焦がせば苦味が増し、酢は煮詰めて酸味の強さを調節すればいい。フォンも煮詰めて使えば、旨味が増強されます。さらに食感の要素を合わせて考えると、より立体感が出ます。

六角形の塩味の目盛りがゼロだとしても、他の五味の目盛りが大きければ、面積の広い図形が作れます。無塩でも、味のボリュームの大きな、味わいの満足度の高い料理が作れる。無塩だから味気ないなんてことはなくなります。
つまり、塩以外の味の目盛りを大きくするように意識するわけですが、わけてもシェリービネガーや柑橘による酸味が果たす役割は大きいと言えます。味わいがより立体的になりますし、特に柑橘を使えば、爽やかな酸味と甘味、清々しい香りやほろ苦さが加わって、果肉を噛んだ時に粒々が弾けて飛び散る刺激が心地良い。皮も刻んで使うと、皮に含まれる精油がまた香りを放ちます。

魚介と野菜のサラダは、甘味のパプリカ、苦味のケールとアンディーヴ、全方位型のミニトマトに、貝のジュのミネラリーな旨味をまとわせています。貝には海の自然な塩分があるでしょうから、厳密には無塩と言えないのかもしれないのですが。
鴨にはハチミツとスパイスを重ねて焼き、シェリー酢、オレンジ果汁、フォンを煮詰めてソースにして、塩以外の目盛りMAXを目指しました。「無塩に気付かないおいしさ」と喜ばれるんですよ。

*『TABLE OGINOの野菜料理200』(誠文堂新光社)に掲載されている「野菜の持ち味と調味の関係」の図のバリエーション。

<RECIPE>

魚介と野菜のサラダ

ホタテ、ツブ貝、赤エビからジュを引き出して野菜に絡めるのがポイント。甘味や苦味などベクトルの異なる味の野菜をバランス良く取り合わせ、全体の味わいに膨らみを持たせた。無塩な分、噛み締めるほどに素材の風味が立ち上り、トータルな味わいは大きく感じる。

◎材料(2人分)
ホタテ貝……2個
ツブ貝……2個
赤エビ……2尾
オリーブ油……小さじ1

サニーレタス……1枚
アンディーヴ……2枚
ケール……1枚
パプリカ……1/4個
ミニトマト……5個

<ドレッシング>
エシャロット(みじん切り)……1個
シェリービネガー……大さじ2
E.V.オリーブ油……大さじ3


1 ホタテ貝は5等分のそぎ切りに、ツブ貝は薄く8枚スライスにする。赤エビは頭と胴を分け、胴体の殻を外して背ワタを取り除く。
2 サニーレタスとアンディーヴはザク切りに。ケールは食べやすい大きさにちぎる。パプリカは薄皮をむき、太いせん切りに。ミニトマトは2等分する。これらを大きめのボウルに入れる。
3 平鍋かバットに1を入れ、オリーブ油を回しかけて、250℃のオーブンで7分間焼く。魚介からジュが染み出してきて、泡立ち、煮詰まる前にオーブンから取り出す。
4 2のボウルに3を入れる。ドレッシングの材料を加え、魚介のジュとドレッシングがしっかり乳化して野菜によく絡むように、手で混ぜ合わせる。




小鴨のロースト オレンジソース

皮目にハチミツとスパイスを重ね焼き。シェリー酢、オレンジジュース、フォン・ド・ヴォーを煮詰めて作るソースを添えて。甘味、香味、酸味、旨味が織り成す複合的で濃密な味わいとフレッシュなオレンジが放つ溌剌とした刺激の前に、無塩であることを忘れる。

◎材料(2人分)
小鴨(カネット)胸肉……1枚(220g)
オリーブ油……大さじ1
無塩バター……大さじ1
ハチミツ(アカシア)……小さじ1
黒コショウ(粗挽き)……ひとつまみ
クミン(粗挽き)……ひとつまみ
コリアンダー(粗挽き)……ひとつまみ
チリパウダー(粗挽き)……ひとつまみ

<ソース>
グラニュー糖……小さじ1/2
シェリービネガー……大さじ1
オレンジの皮(せん切り)……小さじ1/2
オレンジジュース……80ml
フォン・ド・ヴォー……80ml
無塩バター(モンテ用)……20g
シェリービネガー(モンテ用)……小さじ1/2

オレンジの果肉……5房

1 フライパンにオリーブ油とバターを熱し、小鴨を中火で焼く。まず表面を焼き付けたら、アロゼ(油を全体に回しかける)しながら焼いていく。
2 皮がパリッとしてきたら、フライパンから取り出し、温かい場所で5分ほど休ませる。
3 皮にハチミツを塗り、スパイスをまぶして、240℃のオーブンで5分間焼く。焦げると苦くなるので、焦がさぬように。
4 オーブンから出して、5分ほど休ませる。
5 ソースを作る。鍋にグラニュー糖、シェリービネガーを入れ、水分がなくなる寸前まで煮詰める。
6 オレンジの皮、オレンジジュース、フォン・ド・ヴォーを加え、とろりとしたシロップ状(約1/5量)まで煮詰める。
7 バターとシェリービネガーを加えて、モンテする。
8 小鴨を5枚にスライスして皿に盛る。ソースを流しかけ、オレンジの果肉を飾る。





SHOP DATA
◎ オギノ レッドアンドグリーン レストラン

東京都世田谷区池尻2-20-9 1F
☎ 050-3184-0976
11:30~13:00LO(土曜、日曜、祝日)
18:00~21:00LO
昼2990円、夜5800円(税・サ別)
月曜休、プラス2日不定休あり
夜のみカード可、30席、禁煙
東急線池尻大橋駅より徒歩5分
http://french-ogino.com/



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