世界のスーパーマーケット最前線――番外編
世界9カ国“レジ袋”最新ルポ
2019.06.21
鎌倉市の由比ガ浜にシロナガスクジラの赤ちゃんが打ち上げられたニュースが飛び込んできたのは、昨年夏のこと。その胃からプラスチックごみが発見されたことがきっかけとなって、神奈川県は「かながわプラごみゼロ宣言」を発表しました。
国内で排出されるプラスチックごみは年間約900万トン。うち400万トンが包装容器やペットボトル、レジ袋など、使い捨てプラスチックと言われます。京都府の亀岡市、大阪府など相次いで宣言をする自治体が続き、「プラごみゼロ」は今、大きなうねりとなりつつあります。身近なところから「プラごみゼロ」を目指そうと、多くの自治体や企業がレジ袋廃止に向けて動き出しています。
では、海外のスーパーのレジ袋の使用実態はどうなっている? 世界各地のジャーナリストさんに、自分の国のレジ袋事情をレポートしていただきました。
【ドイツ】
「包装ゼロ」のスーパーマーケットが好評!
text & photographs by Hideko Kawach
2018年6月、カナダで開催されたG7で海洋プラスチックごみ削減に向けて「海洋プラスチック憲章」が提起され、アメリカと日本以外の5カ国が署名しました。今年3月27日には欧州議会で2021年からの使い捨てプラスチック製品の使用を禁止する法案が可決、ヨーロッパではプラスチックごみ対策が着々と進んでいます。ちなみに21年から使用が禁止されるプラスチック製品とは、使い捨ての皿とカトラリー、ストロー、綿棒の芯、風船の柄、酸化型生分解性プラスチックや食品容器、発泡スチロール製コップなどです。
ドイツのスーパーマーケットでは、有料のプラスチックレジ袋も姿を消しつつあります。ディスカウントスーパーの「アルディ」や「リドル」、大手スーパーマーケットチェーンの「レーヴェ」が自主的に使用を止め、有料の紙袋か、何度も使える厚手のバッグを店頭販売しています。今年いっぱいで全ての使い捨てプラスチック製品(トレイ、カップ、ストローなども)廃止も打ち出しました。
ドイツには元々エコバックの文化があり、これらの施策はごく自然に受け止められているように思います。むしろ企業はポジティブなイメージを打ち出すべく「プラスチック不使用!」を掲げている感もあります。
2014年、ベルリンにドイツ初の「包装ゼロ」のスーパーマーケット「オリギナル・ウンフェアパックト(そのまま、無包装という意味)」が登場。好評を得て、国内外からの問い合わせも多く、現在では取扱商品数が当初の350点から750点に増えました。同様のアイデアで、包装をせず、お客が自ら容器を持参して量り売りするシステムの店がドイツ各地に広まっています。
最近、ドイツで課題とされているのは、アマゾンに代表されるオンラインショッピングやフードデリバリーといった、デリバリー業界における包装です。便利ではあるけれど、包装ごみの多さが問題になっています。デリバリー業界の大半が生分解性の素材によるパッケージを使用しているものの、オンラインショッピング自体を批判する声も高まっています。
【イギリス】
セルフレジで最初に問われる「マイバッグ持ってる?」
text & photographs by Yuka Hasegawa
英国では、まずウェールズで2011年、北アイルランドで13年、スコットランドでは14年にレジ袋の有料化が導入され、イングランドでは15年から有料化が法律で義務付けられました。
(同法律が適応されるのは、250人以上の従業員をもつ企業で、中小企業はこの対象ではありません)
有料化が施行されて以来、7大スーパー(「テスコ」「ASDA」「セインズベリー」「ウエイトローズ」「マークス&スペンサー」「モリソンズ」「Co-op」)におけるプラスチックレジ袋の消費量は、2014年度の年間76億枚から2018年度の10億枚になり、86%減少したと報告されています。
最近、英国のスーパーではセルフレジが広く導入されるようになりました。
まず最初の画面で、「レジ袋を使う or マイバッグを持参」の表示が出ます。そして、支払い直前にまた「レジ袋をいくつ使うか?」の画面が。あくまでレジ袋は「買う」ものなのです。
ちなみにレジ袋の価格ですが、一般的なサイズが5ペンス(約10円。紙袋は対象ではありません)。大きいサイズのreuseble袋を10ペンスで販売しているスーパーもあります。
深刻化するプラスチック問題を打開すべく、英国環境庁は、現行の5ペンスを10ペンスに引き上げようと検討中。早ければ2020年1月から新たなレジ袋プライスが導入されるそうです。
【フランス】
量り売りも詰め合わせも、茶紙の袋で。
text & photographs by Sakurako Uozumi
フランスでは「エネルギーの移動に関する法律」の枠組みで、2016年7月1日から「生分解性プラスチック製でない使い捨てのレジ袋」が全国的に禁止されました。たとえバイオマス原料の生分解性プラスチック袋でも厚さ50ミクロン未満であれば使用禁止です。
レジ袋はすべて有料になり、使用が許されるのは、厚さ50ミクロン以上、頑丈で再使用可能な、その店のロゴが大きく入った大型ショッピングバックか茶色の紙袋で、値段は大きさによって12サンチーム~1.5ユーロ程度。
違反した店には最高で罰金10万ユーロが科せられます。
量り売りが基本のスーパーの野菜・果物売場では茶色い紙袋に入れて計量するようになり、サラダ菜、カリフラワー、ブロッコリーなど、紙袋に入りきらない場合は、ごく薄く透明なプラスチック袋に入れて秤にのせていますが、これも段階的に減らしていくようです(20年50%減、25年60%減)。
パリは、タバコのポイ捨てが多くて、清潔な街とは言い難く、ごみの仕分けも日本に比べて随分とゆるい。環境問題に熱心に取り組んでいるイメージがなかったのですが、この件に関しては積極的な印象を持ちました。誰もが賛同しているように見えます。一度やると決めたら、とことん突き進むフランス人。必要とあらば、つべこべいわずにやるんですね。
【ノルウェー】
「そもそもコレって必要なの?」と考えるクセ。
text & photographs by Asaki Abumi
ノルウェーでは、「環境を汚したら、その分、お金を払う」という考え方が市民に根付いています。
私がノルウェーに引っ越した2008年当時から、オスロでレジ袋が有料なのはごく当たり前のこととして浸透していました。
環境を汚さず、お金を払わずに済めばそれに越したことはありません。私の周囲でもエコバックを使用している人がほとんどで、お金を払ってプラスチック袋を使うのは、エコバッグを忘れたか、エコバッグに入り切らない時、あるいは、プラスチック袋を家でゴミ袋として使いたい場合でしょうね。
2018年10月の国営放送局の報道によると、スーパーマーケットチェーンの有料プラスチック袋の動向(対2017年)は、
・「Rema1000」では、販売額が5%落ちた
・「Spar」では、販売数が50万袋減った
・「Meny」では、販売数が100万袋減った
・「Coop Norge」は2020年までに販売数を20%減らすのが目標
という大きな効果が。
レジ袋の料金はレシートに明記されるため、節約のためにもエコバックを使うおうという意識が高まります。
無人レジでも「袋は要りますか?」と常に聞かれ、「お金を払ってまでプラスチック袋は必要なのか?」と自問させるシステムだなと思います。ただ、エコバッグはイベントでもらうことも多く、無料配布されすぎて、最近では一人が所有するエコバックの数が無駄に多すぎるのではと感じます。エコバックが何個も必要かという議論は、今後増えると予想します。
袋以外でも、たとえば「フルーツにプラスチック包装をしないでほしい」という消費者の声が増えており、「そもそもこれって必要なの?」と考えるクセが市民に根付いていると感じます。
日本と違って、ノルウェーでは環境議論が非常に盛んで、生活のおかしい点を自己批判する傾向が高く、環境に悪いことをしていると罪悪感を抱かせるニュースも多い。報道機関や政治家が日常的に発するこのようなメッセージは、人々の心に無意識に影響を与えていると感じます。
特に、まだ有権者でない子供や若者にグリーン思考が強く、彼らが大人になった時にはいっそうプラスチックを使わないライフスタイルになるのではないでしょうか。
【イタリア】
野菜売り場の量り売り袋も有料に。
text&photographs by Yuko Suyama
イタリアでは、1989年にレジ袋の有料化が始まり、2011年からは生分解性プラスチック袋以外のレジ袋の使用が禁止されました。
とはいえ、そこはイタリア、多くのスーパーでプラ袋の在庫があったのか、しばらくはそのまま使われていたというのが実情。徐々に移行していったという記憶があります。
2018年1月からは、スーパーの野菜や果物をセルフで計って購入するのに入れる袋も生分解性でなければならず、しかも、有料(0.01ユーロ)になりました。
これにはけっこう議論が巻き起こりましたね。
イタリアのスーパーでは量り売りがほとんど。野菜や果物を袋に入れて秤にのせる、商品の番号を押すと値段シールが出てくる、シールを袋に貼る、という段取りが必要で、袋代を払わないことには野菜や果物が買えなくなったからです。
それでも、テレビなどで紹介される街の声はほとんどが「環境のために良いことだ」とポジティブな反応。
ただ、実のところ、生分解性プラスチック袋は、やわで裂けやすく、すぐ穴が開くし、使い勝手が悪い。ちょっと匂いもある。
個人商店の八百屋も、袋は紙製かこの生分解性プラスチック袋なので、私が愛用する八百屋のマウロは「重い果物や野菜を入れる時、特に夏は困るんだよ」と嘆いています。イタリアのスイカは1個10キロぐらいあって、半分とか1/4カットにしても、すごく重い。袋を二重にしたりして対処しているようです。カルチョーフィも、はじめに紙に包んで袋に入れたり、手間もかかるそうです。
ミラノでは、数年前から、野菜クズなどの有機ゴミも、生分解性の袋に入れるように義務付けられています。
その容器は、通気を良くするために蓋と側面が格子状に開いていて、気温が上がると匂いが出てくるため、コンドミニオの大きなゴミ捨て容器にこまめに通う羽目になってしまったのですが。
【オーストラリア】
豪州のスーパーからレジ袋が消える。
text & photographs by Akiko Mori Ganivet
2018年7月1日、クイーンズランド州と西オーストラリア州でシングルユースのレジ袋を禁止する条例が施行されました。レジ袋を提供した大手小売店は、クイーンズランド州では最高6500ドル、西オーストラリア州では最高5000ドルの罰金を科せられます。
南オーストラリア州や首都特別地域(ACT)、北部準州(NT)、タスマニア州では既にレジ袋が禁止されていました。
ニューサウスウェールズ州(州都シドニー)とビクトリア州(州都メルボルン)ではレジ袋が禁止されていませんが、スーパーマーケット業界を寡占している「ウールワース」と「コールズ」の大手2社が、環境配慮のために、2018年から、全国的にレジ袋を廃止。東海岸を中心に店舗網を拡大しているドイツ系のスーパー「アルディ」は、元々レジ袋を提供していないため、この条例によって、オーストラリアのほとんどのスーパーからレジ袋が消えることになりました。
買い物袋を忘れた場合は、有料の袋を買わなければなりません。「ウールワース」は繰り返し使える手付き袋を1枚15セントで、布製のバッグを99セント~で販売しています。高くても2ドル程度のエコバッグはデザインが増えつつあります。
脱プラスチックへ向けての動きは10年ほど前から徐々に熱気を帯びていて、裕福なエリアを中心にスーパーへ行く時はエコバッグ持参が広まっていたので、レジ袋の有料化を受けての大きな変化は感じられません。
今一番の関心は脱プラスチックストローです。
【ペルー】
レジ袋不要の客専用レジも。
text & photographs by Keiko Harada
2018年12月5日に「使い捨てレジ袋禁止法」が国会本会議で可決、12月19日に公布されました。スーパーマーケットや食料品店、一般商店などは、2021年12月までに、リサイクル可能な素材または生分解性など環境に配慮された素材への転換を推し進めることが義務付けられました。
また同法令により、2019年8月1日以降は有料化を実施、レジ袋を利用する個人(および法人)がその費用を負担しなければなりません。
スーパーにはレジ袋不要な人専用のレジもできました。現時点ではまだ、専用レジでもレジ袋を無料でくれますが、消費者の意識を高める効果は十分あると思います。
大手スーパーは早くからこの問題に取り組んでいました。
「ウォン」というチェーン店は2007年から生分解性プラスチック袋を導入、「トットゥス」というチェーン店も一部店舗で有料化を開始しています。
学校での環境教育にも力が入れられるようになっています。
ただ、ペルーは経済格差や地域格差が激しく、教育レベルも社会階層によって相当な違いがあります。また大手スーパーの取り組みと市場や個人商店では温度差が大きく、徹底するのに時間がかかりそうです。
それでも、新聞や情報サイトに「買い物バッグを使いましょう」「不要なプラスチック袋は断りましょう」などという文言がアップされています。時間はかかるでしょうが、確実に進んでいくと思います。
【インド】
エコバッグ持参の浸透まであと一歩。
text & photographs by Akemi Yoshii
2018年の世界環境デー(6月5日)にナレーンドラ・モーディー首相は、2022年までにインド全土で使い捨てのプラスチック製品を一掃するという宣言をしました。
インドで最も人口の多い都市ムンバイを擁するマハーラーシュトラ州では、2018年3月23日に、レジ袋を含む全ての使い捨てプラスチック製品の製造・使用・輸送・販売・保管・輸入を禁止する法律(医療用、食品用プラスチック製品などの例外あり)の制定が発表され、同年6月から施行。ペットボトルの使用は認められていますが、製造者に回収・リサイクルシステムを確立するよう義務付けています。違反した場合、初回は5000ルピー(8000円)、2回目は1万ルピー(16000円)、それ以降は25000ルピー(約40000円)以下の罰金刑あるいは禁固3カ月以下の懲役刑が科せられます。
タミル・ナードゥ州では、2019年元旦より使い捨てのプラスチック製品の製造および使用を全面禁止に。プラスチック製のレジ袋は、露店にいたるまで全面廃止され、スーパーでは布製のエコバッグをレジで販売しています。近所のスーパーでは44×44cmの布製バッグが16ルピー(26円)でした(これより小さいサイズは12ルピー)。
スーパーのレジ係の話では、利用客の半分はエコバッグを持参せず、毎回購入している状態がプラスチック禁止令施行からほとんど変わっていないとのこと。オーガニックショップでは、新聞紙を再利用したレジ袋を無料で配布していますが、こちらでは8割がエコバッグや段ボールの箱を持参しているようです。
プラスチック製のレジ袋が手に入らなくなって、エコバッグの購入が難しい貧困層には影響が出ているようです。エコバッグの調達は企業や小売店に任せられていますが、政府の支援も必要な気がします。
確実に様々な場面で脱プラ意識が高まり、取り組みが進んでいるのを感じます。レジ係に「日本では国レベルのレジ袋有料化は2020年以降で、いろいろな議論もあるようだ」という話をすると、「何の問題があるの?簡単なことでしょう?」と即答されたのが印象的でした。議論するレベルでなく、当然のことという考えのようです。
【アメリカ】
急速に姿を消す、使い捨てプラスチック袋。
text & photographs by Kuniko Yasutake
去年のアースデーのテーマが“End Plastic Pollution(プラスチック汚染をストップ)”。現代人が今行動を起さないと、2050年までに海中のプラスチックの数は魚の数を超えるという予想データを知り、それが遠い未来でないことにちょっと身震いしました。
現時点で、スーパーマーケットや小売店におけるシングルユースのプラスチック製レジ袋の取り扱いについて、米国連邦政府は全州共通の指針や法律を設けていません。
州として、プラ製レジ袋使用を禁止・制限する条例を制定・施行しているのは、カリフォルニアとニューヨーク(施行は2020年3月から)、そして特別区のワシントンDCのみですが、郡・市・町が独自の条例を制定・施行しています(2018年から急上昇中の印象あり)。ちなみにハワイでは州内の郡が各々2011~2015年にかけて条例を制定、事実上州全体で施行されています。
私が住むロードアイランド州のブリストル市では、今年1月より、スーパーやドラッグストアからシングルユースのプラ製レジ袋が消え、代わりにハンドルなしの紙袋が無料で提供されています。
チェーン店ごとの自発的な取り組みもあって、「ホールフーズ」は2008年にシングルユースのプラ製レジ袋提供を停止。そして昨年、全米最大手スーパーの「クローガー」は、2025年までに国内全店でシングルユースのプラ製レジ袋を廃止すると宣言しました。クローガーの全店で使用されているシングルユースのプラ製レジ袋の量は、毎年約56,000トンに及ぶそうです。
私の町のスーパーやドラッグストアからプラ製レジ袋が一夜で全て姿を消した今年初め、我が家のゴミ箱の中敷に使う袋をこれからどうしようと思ったことは、我ながら身勝手な反応と認めざるを得ません。友人やご近所でも同様の声を聞きました。しかし、条例が対象にしているのはレジ袋のみ。野菜や精肉用に用意されている薄手のポリエチレン袋はまだあるのを見て、内心ホッとしました。やっぱり自分勝手です。
今後、それもなくなるでしょう。その未来の状況に慣れるためにも、今から自宅ゴミ箱の中敷プラ袋は破れるまで再利用することにしました。
米国のいろいろな町で、店頭にどっさりあったシングルユースのプラ製レジ袋が一斉に姿を消しています。スーパーに勤めている人達に「プラ製レジ袋の在庫、まだあったでしょう? どうやって処分したの?」と尋ねたら、「どこへ行ったかわからない」という声と「スタッフで分けた」という声が。条例が施行されたばかりの地域のスーパーや袋メーカーにはまだ大量のプラ袋が眠っているのでしょう。それらがこの先どういう道を辿るのか、知りたいような知りたくないような気分です。