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FEATURE / MOVEMENT

食のバリアフリープロジェクト:FREEなレシピ 1「ル・マンジュ・トゥー」谷シェフ × 老後食

何を食べて老後をすごすか?

2017.08.10

photographs by Masahiro Goda

連載:食のバリアフリープロジェクト


テーマ:【老後食】

避けて通れない高齢化社会。
介護食が話題になりますが、その前に、まず自分自身の老後の食事をイメージしてみましょう。
「ル・マンジュ・トゥー」谷シェフご夫妻に、老後の食事について考えていただきました。


大切なのは、普通に食べ続けるためのメンテナンス。

谷 昇シェフとのり子さん

昇:去年、胃癌の内視鏡手術のために入院した時、「俺、死ぬかも」って思った。病院食が口に合わなくて。
のり子:先生にお願いして、退院を1週間早めてもらったのよね。

昇:2週間休んだだけで経営も大変になって。リタイアできるならしたいけど経済的に無理だな。孫にお小遣いをあげられるくらいは稼いでいたいし。

のり子:そうね。

昇:「ラ・ブランシュ」の田代さんなんて「死ぬまでやる」って言ってるのに、先に辞めるわけにいかない。つまり、仕事は辞めない、それがすべての前提です。癌になっても入院する気ないし、介護食を食べているイメージもないなぁ。そもそもリタイアとか老後という発想がない。ギリギリまで元気でぽっくり。それが僕の理想です。

――食事のイメージはありますか?
昇:食べることにあまり興味がないんですよ。奥さんが先立たれてしまったら、僕は間違いなく餓死しますね。自分のために料理を作りたいなんて気持ち、サラサラないですから。昔からそう。ただ一点、まずいものはいや。まずいものを食べるくらいだったら、食べないでいい。今も一日一食です。夜の営業が終わった後、夜中の1時頃に店のスタッフみんなでまかないを食べるんですが、それだけ。昨日は韓国料理、一昨日は鶏とオリーブのトマト煮、その前は海鮮丼。ハーシーのアイスバーとか、仙太郎の山椒餅とか、デザートも付きます。あとは、朝起きた時のカフェオレくらい。

のり子:一日一食で大丈夫なのかなって思うんですよ。でも、仕事の前は食べたくないみたいで。集中力や味の感覚が鈍るんでしょうね。お腹が空いているほうがクリアな状態でいられるんだと思います。平日は店に泊っているので、帰宅するのは週末のみですが、帰宅しても食事は外食。せめて週末くらいは何を食べるか自分で決めたいからって、私に用意させない。ほら、普段はスタッフの方が用意してくださるまかないを食べますでしょう。食べようと思ったものを食べられるのが週末だけなので、その欲求だけは死守してますね。何を食べるかというと、肉。

昇:肉っ食いなんで。とにかく肉がないとダメなんです。肉、鰻、中華。そのローテーション。
のり子:私は主人からリクエストされないかぎり、自分からは作らない。私が食事を作るのは年2回くらいですね。

昇:もう本当に身体がヘタッて、出掛けたくもないっていう時、「のり子さん、うどん作ってくれる?」って。
のり子:築地の秋山商店の鰹節と北海道から取り寄せた昆布でとっただしに、鶏とお揚げとネギ入れて。

昇:これを2玉食べるんです。卵も入れてもらって。

――わりと本能任せの食事ですね。
昇:うちのお客様の最高齢は妹尾河童さんで87歳になられるんですが、普通に召し上がりますからね。食べやすくカットしたり、柔らかくしたりなんてことは一切しません。80歳過ぎてからインプラントの治療されたり、完璧にメンテナンスなさってます。河童さんを拝見していて、大切なのは、どう生きていくかという意志とヴィジョンを持つこと、そのために身体のメンテナンスをすることだなと思うんです。

のり子:主人もメンテは万全です。

昇:3カ月ごとに検診に行っています。心臓の検査、歯の検査、内視鏡検査、その他もろもろ。僕たち2人とも栄養士だから、外食しながらも、タンパク質足りてる、ビタミン足りてない、食物繊維摂れてないって、栄養バランスには神経使っているよね。

のり子:食材の数も意識するし。

昇:普段から僕が通っている慶応病院の公衆衛生の先生がおっしゃるには、「よほどの身体の変調があれば別だけれど、好きなものを適正な量食べることが大事。栄養バランスも大切ですが、楽しく食べることはもっと大事」と。

のり子:一応、老後の食事をイメージして作ってみたけれど・・・・

昇:たぶん2人で外食だろうね(笑)。

<RECIPE>

老後の食事をイメージして作っていただいた、ブロッコリーとパプリカのポン酢和え/とろろ/くまもとあか牛のグリル/味噌汁/麦ごはん。谷シェフは肉っ食い。上質なタンパク質源である赤身の牛肉をメインに、品目多めに野菜たっぷりの味噌汁、野菜のポン酢和え。おかずを食べ終わってからごはんだけで食べる(谷シェフは頑なにその食べ方を守る)ためのとろろ。

(以下、分量はすべてお好みで)
■味噌汁
ゴボウ、大根、ニンジン、シイタケ、長ネギ、糸コンニャク、カボチャ、豆腐、だしパック、味噌

 野菜はすべて食べやすいサイズの薄切りや小口切りにする。カボチャはレンジで火を通しておく。糸コンニャクは長さ1cmに切って下茹でする。豆腐は1.5cm角のさいの目に切る。
 だしパックでだしをとり、火の通りにくい野菜(ゴボウ、大根、ニンジン)から入れる。あらかた火が入ったら、シイタケ、長ネギ、糸コンニャクを加える。
 いったん火を止めて、味噌を溶き入れてから、カボチャ、豆腐を加えて、軽く火を通す。

■ブロッコリーとパプリカのポン酢漬け
ブロッコリー、パプリカ、ナス、揚げ油、ポン酢、水、

 ブロッコリーは厚めのスライス、パプリカは太めのせん切りにしてゆがく。なすは揚げる。
 水気を切って容器に入れ、熱いうちに水で薄めたポン酢を回しかける。
 一晩置いて、味をなじませる。

■くまもとあか牛のグリル
くまもとあか牛、塩、コショウ、わさび醤油

 肉に塩、コショウをしてから、熱したグリル板にのせて焼く。表面の色が変わったら、裏返す。
 中がレアのうちに皿に取って、わさび醤油を添える。

■とろろ
自然薯、卵、醤油、佐賀のり(もみのり)

 自然薯をすり鉢の内側ですりおろす。
 卵を割り入れ、醤油を少量加えて、すりこぎであたる。
 器に取って、のりをあしらう。





◎ ル・マンジュ・トゥー
東京都新宿区納戸町22
☎ 03-3268-5911
18:30~21:00LO
日曜休
都営線牛込神楽坂駅より徒歩6分
http://www.le-mange-tout.com/



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