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JOURNAL / 世界の食トレンド

グルテンフリーの居酒屋でニューヨーカーを本格和食に誘う「Odo」大堂浩樹氏の新たな一手

America [New York]

2026.05.25

グルテンフリーの居酒屋でニューヨーカーを本格和食に誘う「Odo」大堂浩樹氏の新たな一手

text by Akiko Katayama
洗練された会席の味わいを自由に楽しませる各品。注文数の平均は1人6皿といい、お客は知らず知らずのうちに会席コースを体験している様子。Odo出身の精鋭スタッフのサービスも柔らかで、日本のおもてなし精神を伝える。

優れた料理人は多く存在するが、多忙な日々の中で未来を描きながら、着実にそこに向かって歩む存在は稀である。その1人が、ミシュラン二ツ星を誇るマンハッタンの会席料理店「Odo(オー・ディー・オー)」のオーナーシェフ、大堂浩樹氏だ。

鹿児島県出身の氏は、福岡の調理師学校を卒業後、「京都和久傳」「京天神 野口」で修業。デザイナー緒方慎一郎氏が手がける東京の懐石料理店「八雲茶寮」の立ち上げにも参画し、審美眼を養った。2015年、旧知の仲である京都の生麩専門店「麩嘉」オーナー、小堀周一郎氏からの誘いを受けニューヨークへ。小堀氏が手掛けた「Kajitsu(嘉日)」で料理長を務め、ミシュラン一ツ星を守りながら、精進料理の魅力を5年半この街に伝え続けた(同店は2022年閉店)。

精進料理を通じて学ぶことは多かったが、肉大国アメリカでの様々な制約の中、不完全燃焼を感じた氏は独立を決め、Odoを2019年にオープン。開店10カ月後にミシュラン一ツ星を、2023年には二ツ星を獲得した。

「Odo(オー・ディー・オー)」オーナーシェフ 大堂浩樹
「3年間だけこの街で力試しをしてみよう」とニューヨークにやってきた大堂氏。人生の展開とはわからないものだ。

しかし栄誉に留まることなく、常に模索を続けているのが大堂氏である。Odoと同じ敷地内に、和食への親しみやすさを促すカフェバー「ホール(Hall)」、食とアートを融合させた「ザ・ギャラリー(The Gallery)」、隠れ家バー「オー・ディー・オー・ラウンジ(Odo Lounge)」も展開し、ファンを集めてきた。

そこに加わったのが、2026年2月開店の「オー・ディー・オー・イースト・ビレッジ(Odo East Village)」。テーマは“会席居酒屋”だ。「会席料理に興味はあってもOdoに行くのは敷居が高い」と感じる人々のために、大堂氏が生み出した新たなコンセプトである。

メニューは「先付・向付・椀物・焼物・揚物・炊き合わせ・食事・甘味」の8項目に分かれ、それぞれに選択肢を用意。居酒屋流に何品頼んでもよく、数品で短時間で済ませたり、会席フルコースにすることもできる。そのメニュー構成から、お客は自然と会席の流れも学べる仕組みだ。

気軽で柔軟なスタイルとは裏腹に、料理は全てOdo流の本格会席。カウンター24席の店内で、日々お客と笑顔で接し、和食の魅力を発信しているのは豊田幸司氏である。日本で11年間修業後、2023年にニューヨークに渡り、Odoで実績を上げたのち同店料理長に抜擢された。

たとえば先付の「きんぴら」(9ドル)は、ゴボウを桂剥きするという手の掛け具合。繊細な食感が、ゴボウの味わいを十分に伝える人気の定番だ。一方、炊き合わせの「煮込み」(16ドル)は、とろけるような牛タンを、赤白のブレンド味噌と煮詰めた赤ワインで風味づけし、さらにパルメザンチーズを直前に下ろして提供。日本の洋食を思わせる仕立てが、ニューヨーカーと会席の距離感をさらに縮める。

「きんぴら」(9ドル)
先付の一品、ゴボウを桂剥きして作る「きんぴら」。日常のおかずを洗練された味わいに仕立て、ゴボウの可能性を新たに感じさせる。

同店のもう一つのテーマが「米」。「お米は歴史を通じて、神への貢物から貨幣、そして主食として、日本の食文化の核にあります。この街で、そのお米にさらにどんな可能性が生まれるのかを発見しよう、とメニューの軸に据えました」と大堂氏。

現時点での“発見”は、米がグルテンフリーであるということだ。身体に負担がないという理由でグルテンフリーを好むニューヨーカーは少なくない。そこでメニュー全品をグルテンフリーにした。たとえば醤油や味噌も、グルテンを含む麦は不使用。大堂氏は「その結果、米の純粋な風味を生かしやすく、料理人として米の価値を再認識する機会となりました」と話す。

開店と同時に話題を呼び、キャンセル待ちリストは現在700人という人気ぶり。和食が高い注目度を維持する中、ニューヨークでは近年1人数百ドルする高級店が目立つが、一般には近寄りがたい。“会席居酒屋”のコンセプトは、その臨機応変なスタイルで、今後和食人気を支える原動力のひとつになりそうだ。

日本の米農家の小屋をイメージした雰囲気
マンハッタンのイーストビレッジにある趣深い店内。人気のラーメン店「Minca」のオーナーの引退に際し引き受けた居抜きの物件は、緒方慎一郎氏のデザインで一新。日本の米農家の小屋をイメージした雰囲気の中、ふと目を落とす細部にも美しさが詰め込まれている。

時代に即した人気店を生み出し続ける大堂氏は、日々何を思い活動しているのだろう?
「常に未来を展望しながら、ストーリーを描くのが楽しい。ファッションと同様、来年、あるいは3年後に何が求められているのかを想像し、そこから逆算してアイデアを巡らせます。同時にスタッフについて、『この子は次にどんな場で輝かせようか』と考えるのも、とても好きです」
豊田シェフも、氏が輝かせる1人だ。

多くの店を同時に切り盛りする苦労はないのか、と問うと「面白さを常に感じているので、苦になりません。自分と仕事をしてくれる人たちを眺め率いる、オーケストラの指揮者みたいな立場にいるのが、自分には合っているんだと思います」。
そう柔和に笑顔で答える大堂氏は、今後ますますアメリカの土壌で、本格和食の苗をいくつも大きく育てていきそうだ。


Odo East Village
https://www.odoeastvillage.nyc/

*1ドル=157円(2026年5月時点)

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